ふるさと納税 県内約3分の2の市町にアマゾンジャパンが接触

ふるさと納税をめぐり、三重県内の少なくともおよそ3分の2の市町が、ネット通販を手がけるアマゾンジャパンから、「ふるさと納税事業に参入する」などとして接触を受け、一部の自治体は「手数料が割安ならメリットがある」などとして、利用する意向であることが各自治体への取材でわかりました。
多くの自治体が仲介サイトを利用し、返礼品を出して寄付を集める中、自治体の「返礼品競争」の環境に変化が生じることも予想されます。

ふるさと納税をめぐって、NHKが19日までに三重県内の29の市町へ行った取材によりますと、2月から3月にかけて、19の自治体がアマゾンジャパンから「ふるさと納税事業に参入する」などといって接触を受けたことがわかりました。
4つの自治体は、アマゾン側から接触があったかどうか明らかにしませんでしたが、少なくとも県内のおよそ3分の2の市町に対してアマゾン側からの接触がありました。
接触があったと答えた各自治体の担当者によりますと、ほかの仲介業者では寄付額の10%前後が一般的な仲介手数料について、アマゾン側から来年からのサービスの利用を早期に申し込んだ場合、数パーセント低くなるなどと説明されたということです。
多くの自治体では「今後、詳しい説明を受け、利用の有無や予算を確保できるかなどを検討する」などとしていますが、一部の自治体では▼ほかの業者より会員数が多い▼手数料が低いならメリットが大きいなどとして、導入の予定を固めたり、前向きに検討したりしているということです。
一方、アマゾンジャパンは、取材に対して「お答えできることはございません」とコメントしています。
ふるさと納税制度をめぐっては、県内すべての市町で仲介サイトを利用しています。
自前の運送網を持つネット通販大手が新たに事業に加われば、自治体の「返礼品競争」の環境に変化が生じることも予想されます。
ふるさと納税制度に詳しい一橋大学の佐藤主光教授は「低い手数料は魅力で多くの自治体がそこに流れていくだろう。これまで関心がなかった人たちに情報が届き、すそ野は広がるかもしれないが、現状は税金を使った営利ビジネスになっていて、『応援したい自治体だから寄付する』という制度の本来の趣旨をあらためて考える必要がある」と指摘しています。

《「ふるさと納税」 街の人は・・・》
ふるさと納税について、津市の中心部で街の人の声を聞きました。
市内に住む60代の男性は「桃やリンゴなど果物で旅行先で食べておいしかったものを返礼品としてもらっています。過疎が進む地域の市町村に納税できるのでいい制度だと思います」と話していました。
また、四日市市の50代の会社役員の男性は「最近では能登半島地震の被災地に返礼品なしの寄付もしましたが、普段は日用品を返礼品にしてポイントがたまるサイトで限度額いっぱいまで使っています。便利だと思います」と話していました。
一方、40代の会社員の女性は「気に入ったハンバーグを年に何度も頼んでいて欲しい返礼品によってサイトを使い分けています。アマゾンから頼めたら楽だしポイントも期待できますね」と話していました。

《”低い手数料での契約 実現すればメリットある“》
アマゾンジャパンからふるさと納税の仲介に関して接触を受けた県内のある自治体は、ほかの仲介サイトとの間で結ぶ契約より低い手数料での契約が実現すればメリットがあると話します。
仲介サイト経由の寄付の場合、依頼する事務の内容によりますが、寄付額の10%程度を手数料として業者に支払います。
国の基準では、自治体が寄付を募るのに使える経費は、返礼品は寄付額の3割以下、その他の経費を含めて5割以下となっています。
業者に支払う手数料が低くなれば、経費を差し引いたあと自治体に入る金額を増やすることができるということです。
一方、生産業者からの小口での発送が多い自治体では、大手通販サイトの運営業者と契約するメリットはあまりないと話す担当者もいました。

《各自治体は返礼品生かした寄付集めに力入れる》
県内の各自治体は、さまざまな仲介サイトを利用し、ふるさと納税の返礼品を生かした寄付金集めに力を入れています。
県内29のすべての市町は、仲介サイトを利用していて、このうち、大手のふるさとチョイスと楽天ふるさと納税は、それぞれ28の市町が利用しているほか、ふるなびを23の市町が、さとふるを19の市町がそれぞれ利用しています。
10以上のサイトを併用している市町は9つにのぼります。
大手の仲介サイトでは、在庫の管理や配送の手配などを一括して請け負うサービスもあり、自治体にとってメリットとなります。
一方、ふるさと納税制度をめぐっては、過度な「返礼品競争」がたびたび指摘され、総務省は去年10月から自治体が寄付を募るのに使う経費を寄付額の5割以下とする基準の厳格化を行いました。
また、全国的に人口が多い都市部から地方への税の流出が進む傾向が続いています。
三重県内では、29の自治体のうち3分の2以上の20の市町が、令和4年度に寄せられた寄付金が翌・令和5年度の住民税の控除額を上回り、税の流入が多くなっています。
一方、県北中部の9の市町では税の流出が多くなっています。
このうち、流出額がおよそ9億5900万円と最も多い四日市市では、今年度「ふるさと納税推進室」を新たに設け、年収およそ1000万円の待遇で専門の職員を採用しました。
去年11月には半年間の成果の発表会を開き、手作りで仕上げた敷き布団や地元の専門店のギョーザなどおよそ170の品目を返礼品として新たに開拓したことを公表しました。

《専門家「自治体を応援という本来の趣旨を」》
ふるさと納税制度に詳しい一橋大学の佐藤主光教授は、アマゾンジャパンがふるさと納税の仲介事業に参入した場合の影響について、「サイトの利用者が多く、これまでふるさと納税に関心がなかった人たち、特に若者に情報が届き、すそ野は広がるかも知れない。また、アマゾンが提示する低い手数料は魅力で多くの自治体がそこに流れていくだろう」と話しています。
一方、返礼品競争について「現状は、自治体ファーストではなく返礼品ファーストで、税金を使った営利ビジネスになっている。本来、自治体や国に入るべき税金が手数料というかたちで通販サイトに流れ、業者が奪い合っている」と指摘しました。
そのうえで、「利用者には返礼品が豪華だからではなく応援したい自治体だから寄付をするという制度の本来の趣旨をあらためて考えてほしいし自治体は魅力的な町づくりにもっと知恵をだすべきだ」と話していました。