「特集」クマ出没を示す地図を分析すると対策のヒントが見える

県内で相次いでいるクマによる被害についてです。
富山県は、住民に注意を呼びかけるため、クマがどこに出没したかを示す地図「クマっぷ」をホームページ上で公開しています。
クマの目撃に加え、ふんや足跡など痕跡の情報がまとめられています。
NHKは今回、過去10年のデータを入手し、専門家とともに分析。すると、クマがなぜ市街地などに出てくるのか、その背景と対策のヒントが見えてきました。
《VTR》。
県の面積の7割近くが森林で、クマの生息域が広い富山県。ことしの出没情報のうち、およそ8割が市街地など本来クマが生息していない地域でした。
友人がクマに襲われた人「まさかこんなところでクマが出てくるなんて思わないから本当に怖い」。
クマの被害を防ぐため、専門家とともに出没情報のデータを分析しました。
県の自然博物園の職員で、クマの生態に詳しい赤座久明さんです。
ことしは11月5日までに、493件確認されている出没情報。
赤の点は、クマが目撃されたり、足跡や糞などの痕跡があったりした場所を表しています。
10月上旬までは、山での出没が中心でした。
ところが、中旬になると、市街地など平野部での出没が急増。
10月、クマに襲われた人の場所は、すべてこうした地域でした。いずれも住宅の敷地内で被害にあっていたのです。
なぜ、市街地などでクマが出没するのか。
データから見えてきたのは、複数のルートです。
1つ目が、川です。
専門家「すごくジャングルみたいに育っているんですよね。クマが夜になるとその河川敷の林、草やぶから出て」。
赤座さんが注目したのは、川沿いに集中する出没情報。
山からこの川に沿ってクマが市街地へ下りてきていると見ています。
(赤座さんと歩く)。
川沿いを確認すると、草木が生い茂る場所が広がっていました。
(草木など熊の通り道)。
ことしはエサとなるブナやミズナラの実が不作だったため、エサを求めてさまよっていたクマが川沿いを通って市街地に出没したとみられます。
赤座さん「この正面なんかも、コンクリートの上の堤防までぎっしりなってますでしょ。身を隠す場所がいっぱいあるんですよね。川沿いというのは、人が利用していないが故に、動物にとっては、割合安全に移動できるルートということですね」。
さらに、別のルートも見えてきました。
川がない場所にも関わらず、赤い点が山から市街地へ向けて連なっているところがありました。
どのような場所なのか。
赤座さん「これは昔の神通川の岸辺だったところで河岸段丘の崖、そこに林が成立している」。
「河岸段丘」と呼ばれる地形です。
崖が山から続くこの場所の近くには住宅地があり、かつては里山として利用されていたといいます。
赤座さん「昔はやっぱり枯れ枝を取ったり、木を切ってまきにしたりと生活の場だった。人が山を離れたおかげでクマたちが自由に動ける場所になった」。
クマを市街地に引き寄せてしまう大きな原因となっているのが「柿」です。冬眠を前にエネルギーを蓄えるため、人里にある柿を探しているのです。
赤座さん「これは食べたあとですよね.まだ葉っぱ新しいでしょう」。
黄色は、出没情報の中から柿が食べられたり、木が傷つけられたりした痕跡などのデータを抽出したもので、その数は49件。その周辺で、赤の多くの目撃情報があることが分かります。
(赤座さんと歩く)。
現場を訪ねてみると、ここにもクマが潜みやすい環境が見つかりました。田畑の中に住宅が点在する集落です。住宅の周りには、風を防ぐなどの目的で植えられた「屋敷林」と呼ばれる林があります。
(被害受けた住宅)。
被害を受けた住宅は、いずれも屋敷林などの木々が近くにありました。
赤座さん「屋敷林の茂みなんかにこう、日中はこもって、また同じ場所に行って食べると。熊にとっては快適な餌場で、長期滞在して、そこでまとまってえさが採れるっていう、そういう場所になってしまっている」。
【対策に取り組む自治体も】
では、どのような対策ができるのか。
赤座さんは、柿の実を早めに収穫したり、不要な木を伐採したりするほか、クマの進入ルートを断つことが有効だと指摘します。
赤座さん「河川敷も、あの今みたいに、ずっと続くんじゃなくて、ところどころ(草を)刈って、むき出しの状態にしておく。クマがちょっとこう抵抗を感じるような、オープンな空間をね、やっぱりところどころに作っておくような、そういう管理が大事なんじゃないですかね。災害と同じですよね、減災とかって言いますけども、やり方しだいでは被害をうんとうんと低く抑えることができるんだ」。
クマが冬眠するのは、12月ごろとされていて、あとひと月は警戒が必要です。