徳島の企業賃上げ “人材確保のためアップ” “今は厳しい”
賃上げの機運が例年以上に高まるなか、徳島では、従業員の給与アップに踏み切る企業がある一方、業績が今も回復せず、賃上げは簡単ではないという声も聞かれます。
徳島県内で特別養護老人ホームなどを運営する「健祥会グループ」では去年、およそ3000人の従業員全員を対象に、基本給を1人あたり7000円から9000円増額しました。
手当を含めた給与は平均で月6.84%アップし、この春も定期昇給でさらに待遇を改善します。
パート従業員の時給も引き上げました。
介護職で働く職員は、「子育てもしているなか、物価もガソリンや食材などいろいろ値上がりしているので、給与が上がるのはありがたいです」と話していました。
グループが賃上げに踏み切った背景には、コロナ禍で業務が多忙になり、物価高が家計を圧迫する中で働き手の確保につなげたいという考えがあります。
給与の改善は働く人のモチベーションを高め、人材をつなぎとめるカギになります。
賃上げにかかる人件費は、積み立てていた財源のほか、経費の節減で補っていく方針です。
例えば、利用者の体調の情報を、以前はいったん手書きしたデータをパソコンに入力していましたが、タブレットに入力して共有するよう変更して手間を省きました。
介護をサポートするロボットも導入するなど業務の効率化を進め、経費節減に努めています。
「健祥会グループ」の関久代本部長は、「効率のいい働き方で経費を抑え人件費に充てていきたい。賃金を上げることで職員のモチベーションが上がりひいてはサービスの向上につながると思う」と話していました。
一方、業績が完全に回復せず、賃上げをしたくても難しいという企業もあります。
徳島市にあるロボットの精密部品などを海外にも販売している会社では、コロナ禍になる3年前までは順調に業績を伸ばしていましたが、世界的な半導体不足の影響で思うように商品の仕入れができない状態になりました。
さらに記録的な円安が追い打ちをかけ、部品の輸入にかかるコストが上昇するなど、会社の売り上げは一時、コロナ禍前の半分にまで落ち込みました。
こうした経営の悪化を受け、会社は去年の夏から従業員の給与を平均で10%減らしました。
当初は年明けには給与の減額をやめる予定でしたが、円安の影響が続き、半年間延長せざるを得ない状況です。
ことしは、ヨーロッパでも販売網を広げる計画で、業績を回復させ、なんとか賃上げにつなげたいとしています。
会社の代表取締役を務める男性は、「賃上げをしても、その分、従業員を減らさなければならなくなる。業績が回復したら賃上げしたい」と話していました。
【専門家“地方の状況はまだ厳しい”】
労働問題に詳しい日本総合研究所の山田久主席研究員は、地方企業の賃上げの現状について「地方は中小企業が多く、売り上げが少なかったり価格転嫁が進まなかったりして賃上げが広がりづらい状況だ。都市部では賃上げの動きが出てきているので、地方から都市部に人が流出する悪循環が加速する懸念がある」と指摘しています。
一方、働く人の賃金を上げて地域の消費を伸ばすことが地元企業の利益にもつながるとして、「すぐに賃上げできない企業の業績を回復させるために、人材育成や設備投資を行政や経済団体がサポートし、時間がかかっても賃上げを実現することが求められる」とアドバイスしています。
【連合は賃上げを要求】
徳島県内の労働組合で作る「連合徳島」は、物価高で働く人たちの生活に支障が出ているとして、ことしの春闘で、▼基本給を引き上げるベースアップを3%、▼定期昇給分をあわせると5%程度の賃上げを求める方針を示しています。
連合徳島は、「インフレ圧力が高まるなかで春闘を展開し、社会的広がりを意識した取り組みを行っていきたい」とコメントしています。