感染者立ち寄り先の店名公表の妥当性は?徳島地裁で25日判決

新型コロナの感染拡大が始まった3年前、感染者の立ち寄り先として、徳島県に店の名前を公表されたラーメン店が、県に賠償を求めた裁判の判決が、25日に徳島地方裁判所で言い渡されます。店側はクラスターの発生など緊急性がないのに同意もなく公表されたのは不当だと訴えていて、裁判所の判断が注目されます。

徳島県藍住町にあるラーメン店「王王軒本店」は、新型コロナの感染拡大が始まった3年前の7月、感染者の1人が立ち寄ったとして県に店の名前を公表されました。

これについて店側は、クラスターが発生するなどの緊急性がなかったのに、同意もなく店名を公表されたのは不当だとして、県に賠償を求める訴えを起こし、「新型コロナによる風評は飲食店にとって死活問題で、自分の店だけが公表されたのは不公平だ。県の公表には正当性がなく、店の風評被害などへの対策もなかった」と主張しました。

これに対し、県は「公表は、店内に居合わせた不特定の客に対し感染の可能性があることを注意喚起し、感染拡大を防止するためだった」として、公表は正当だったと主張しています。

新型コロナの感染拡大初期の行政による店名の公表が、妥当だったかを問う異例の訴えに裁判所の判断が注目されます。

判決は25日午後3時に徳島地方裁判所で言い渡されます。

【判決を控え 原告の思いは】
原告のラーメン店の経営者の近藤純さん(50)は、店名を公表されたとたん、地元の客足がいっきに止まり、売り上げは激減したといいます。

さらに最もつらかったのは、いわれもない店への中傷でした。

当時、インターネットの掲示板には「店に行ったら感染する」、「コロナラーメン始めました」、「コロナ軒」など、心ない書き込みが相次ぎ、近藤さんは店を閉じることも考えたといいます。

当時のことについて、近藤さんは「私は感染していないのに感染しているとか、誤った情報が大きくなり、『無いことも、有ること』になってしまっていて、とても危険な店という印象を持たれていると感じた。お客さんが全く来ない重苦しい時もあり、半年から1年はつらい状況が続いた」と話していました。

判決を前に近藤さんは「店名の公表は重大なもので店にとって死活問題になる。今後、私が経験した本当につらい時間をほか飲食店に経験して欲しくないので、県や保健所は、当時の対応に非があったなら認めて欲しい。判決にはひと言だけでも行政に対応を見直すよう書かれていれば、いいと思っています」と話していました。

【裁判と店名の公表経緯】
徳島県が原告のラーメン店の名前を公表したのは、
全国で新型コロナの感染の第2波に入った2020年7月でした。

この年の1月に国内で初めて感染が確認され、徳島県でも2月に1人目の感染者が確認されました。その後、県内の感染者は、多くても月に1人か2人で
推移していましたが、7月下旬には連日、感染者が
確認されるようになっていました。

こうした中、7月31日に行われた飯泉知事の記者会見。前の日に発表された県内20人目の感染者に関する「追加の情報提供」という形で、食事に立ち寄った原告のラーメン店の名前を口頭で発表しました。その際は、店から同意を得られたので、公表したと説明していました。

この公表について店側は同意はしていないと反発しました。

店名が公表された後、ぱたりと客足が途絶えたということで、店側は深刻な風評被害を受けたと主張して、おととし、県に1100万円の賠償を求める訴えを徳島地方裁判所に起こしました。

裁判では県の当時の公表やその方法が妥当だったかどうかがわれました。

店側は▼感染者がわずか20分立ち寄ってラーメンを食べただけで、店では感染者の発生やクラスターも起きておらず、店名を公表する必要性や緊急性はなかった。

さらに▼店名を発表するだけで、従業員が陰性だったことに触れないなど、風評被害などへの対策が講じられなかったとして、県の対応は不当だったと主張しました。

これに対し、県は、▼店内に居合わせた不特定の客に感染の可能性があることを注意喚起し、感染拡大を防ぐ目的があった。▼当時の新型コロナをめぐる
社会情勢などを考えれば、公表に問題なかったと主張してきました。

また、店名の公表に同意があったかどうかについては、店側は「公表はやめて欲しいと繰り返し伝えていた。絶対に同意していない」と訴えました。

一方、県は、事前に公表の可能性を伝えた際、「店側が『しょうがない』と言ったため、同意を得たと理解した。そもそも感染症法上、店名を公表するのに同意は必要とされていない」と主張しました。

双方の言い分が対立する中、裁判所は去年8月、和解を勧告しました。

店側の弁護士によりますと、店側が▽賠償請求を放棄するかわりに、県は店に対し、▽店名公表という負担に協力したことへの感謝と、▽明確な同意を得ずに公表したことへの遺憾の意を表明するという
内容を盛り込んだ和解案が示されたということです。しかし、和解は成立せず、判決を迎えることになりました。