【解説】鈴木知事でリニアどう変わる?

知事選挙で、リニア中央新幹線の推進を掲げた鈴木知事が就任してからおよそ3週間。これまで着工を認めなかった川勝知事との違いが、少しずつ出てきています。この3週間の動きを振り返ります。(静岡局県政担当記者・仲田萌重子)

(記者)
鈴木知事は就任した当初から、このリニア問題について「静岡の課題をスピード感をもって克服する」と述べ、まず始めたのが、川勝前知事時代に欠けていた関係者とのコミュニケーションでした。就任直後を振り返ります。

就任して1週間後の6月4日、鈴木知事が最初に向かったのは国土交通省でした。斉藤大臣を訪ね、リニアの協議に協力していく姿勢をアピール。

(斉藤大臣と面会する鈴木知事)
「リニアが整備されると 東海道新幹線と二重になり、防災上も強固になるなど必要性は理解している」

そして斉藤大臣も笑顔で歓迎しました。
(斉藤大臣)
「大臣になって2年半経つが、静岡県知事に来ていただくのは初めて。本当にうれしく思っている」

その翌日には、知事選挙の期間中から新知事との面会を希望していたJR東海の丹羽社長と面会し、トップ会談を実現。

さらに2日後の6月7日には、再び都内を訪れ、山梨県の長崎知事とも面会。川勝前知事が中止を求めていた県境のボーリング調査で連携していくことを確認しました。

その日の午後には、リニア沿線の知事が一同に介する建設促進期成同盟会の総会に初めて出席。足並みをそろえて推進していく姿勢を強調しました。
さらに夕方には、同盟会のメンバーとして岸田総理大臣と面会する場面も印象的でした。

(岸田総理と面会後の鈴木知事)
「斉藤大臣や岸田総理とお会いし期成同盟会や関連する知事の皆さんとも心合わせをした。怒涛の1週間だったが、非常によかった」

(キャスター)
就任してわずか1週間で様々な関係者に会ったわけですね。まさにスピード感を意識しているように感じます。

(記者)
去年の期成同盟会も取材をしたんですが、去年は、世間の批判をさけるために川勝前知事が同盟会に加入しながら着工を認めない状況の中で、ほかの知事が不信感を鮮明にしていました。
一方、ことしは、鈴木知事の就任を祝い、早期の開業に期待する声が聞かれ、トップが変わることで周囲もこんなに変わるのかと驚く場面も多かったです。

県の複数の幹部は、「鈴木知事は、国会議員時代の人脈を活用し、関係者と直接連絡を取るなど、コミュニケーションできることが、早期の面会につながった」と振り返ります。

(キャスター)
では、リニアのスタンスについて、川勝知事との主張の違いは。

(記者)
こちらは、去年の期成同盟会の総会で登壇した川勝前知事の発言です。
「静岡県は一貫して リニアに賛成しているが、水資源や環境の問題がある。合理的に解決すれば 支障はないのでみなさまに知恵を借りたい」と述べています。

そして、鈴木知事はことしの総会で「全線開業を目指す立場を、同盟会と共有をしているが、水と環境の問題はないがしろにはできない。リニア整備と水資源・自然環境の保全との両立に向け、スピード感を持ってJR東海との対話を進める」と述べました。

(キャスター)
互いに「推進」だけれど、静岡の課題はしっかり話し合う。文言で見るとあまり変わらないようにも見えるのですが。川勝前知事は、結局着工を認めることはありませんでしたが、これと同じということではないんですよね。

(記者)
川勝前知事が見せていた「推進」の立場は、“着工が前提にない”言葉だけの“推進”に見え、慎重な議論ばかり求めたことが全国から批判されたため、それを回避するためだったという見方がされていました。

一方、鈴木知事はあくまで課題を早期に解決する立場を強調している印象です。
これについて、鈴木知事はNHKのインタビューで、「推進を前提に、いろんな課題を解決していくのか、課題があるからストップしてしまうのかの違いだ。鈴木康友は鈴木康友の方法でやっていく」と述べています。

(キャスター)
『鈴木康友流』ということですね。では、一番の注目のJR東海との協議は実際、どのように進んでいるんでしょうか。

(記者)
先週、JR東海が行う水資源や環境対策をチェックする国の有識者会議、いわゆるモニタリング会議が初めて県内で行われ、着工に向けた法的な手続きの協議が進んでいることが初めて示されました。

(キャスター)
法的手続きには、どんな課題があったのでしょうか。

(記者)
主なものの2つをまとめました。

まず河川法です。JR東海が整備するリニアのトンネルは、大井川源流の地下を通るため、工事は、河川法に基づく県の許可が必要であること。これは、大井川の水問題の懸念から県が許可する見通しは全くたっていません。

もう一つは、熱海市の土石流を受けておととし県が施行したいわゆる「盛り土条例」です。条例では、自然由来の重金属などを含んだ土の盛り土は、原則認められていません。

一方、JR東海は条例の施行前から、トンネル工事の現場からおよそ10キロ離れた場所に工事で発生したこのような土を置く計画を示した上で、さらに遮水シートで包んで盛り土するなど、条例の「適用除外」になるよう県と交渉を続けていましたが、県は一貫して認めない姿勢を示しています。

今回の会議では、これらの重要な手続きに対する、今後の協議の流れを県とJRが確認するなど、対話が始まったことが示されました。
さらに、事務方だけでなく、県の副知事、JR東海の副社長、国土交通省の技術審議官といった幹部3者で今後、協議状況の共有や連携をするハイレベル会議の枠組みも新たに設置されました。

こうした行政手続きの協議が始まったことについて、JR東海の宇野副社長は次のように述べています。
(6月12日・モニタリング会議後の宇野護JR東海副社長)
「スピード感という話もあったが、多少なりとも(県に)聞いていただけることに至っている。いつ申請するかというタイミングではないが、準備としては必要であり、できることは粛々と話を聞いてもらい、準備ができれば」

また、有識者会議のキーマンである矢野座長も意欲的でした。
(6月14日・南アルプス視察後の矢野弘典モニタリング会議座長)
「小異を捨てて大同につく立場にたって、相違点があればひとつひとつ解決して、事業が始まる状況が一日も早くできてほしい」

(キャスター)
ここまでは、鈴木新知事の下で、少しずつ協議の歯車がかみ合って動き出したようにもみえます。

(記者)
そうですね。鈴木知事が就任してまだおよそ3週間ですので、まだ何が変わったとは明確に言うことはできませんが、立ち止まって協議をしていた川勝前知事と違い、今後は、走りながら協議していくとみられます。鈴木新知事流で、膠着状態だった県とJRの対話が、どのように加速していくのか、今後も注目していきたいと思います。