袴田巌さん再審が結審 釈放認めた元裁判長 判決への思い

10年前に静岡地方裁判所の裁判長として袴田巌さんの釈放を認める決定を出した元裁判官がNHKのインタビューに応じ、ことし9月に言い渡される再審=やり直しの裁判の判決について、「もっと早くなされるべきだったが、ようやくここまで来たので、本当に待ち遠しい」と述べました。

58年前の1966年に今の静岡市清水区でみそ製造会社の一家4人が殺害された事件で、死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審は、静岡地裁で去年10月から行われ、5月22日にすべての審理が終わりました。

これについて、10年前に静岡地裁の裁判長として袴田さんの再審と釈放を認める決定を出した元裁判官の村山浩昭さんがNHKのインタビューに応じました。
村山さんはまず、「審理が終結したこと自体は本当によかったと思っているが、再審が開かれるまでの時間が長すぎるということは厳然たる事実だ」と述べました。
袴田さんの再審をめぐっては、村山さんが出した再審開始決定に対して検察が不服を申し立て、決定が東京高等裁判所で取り消されるという経緯をたどっています。
去年3月、東京高裁が再び再審開始決定を出し、再審が開かれることになりましたが、袴田さんが最初に裁判のやり直しを申し立ててから42年もの歳月が費やされました。
村山さんは「正直言ってこんなに長くかかるとは思っていなかった。私たちの裁判体の責任として、袴田さんと姉のひで子さんに申し訳ないという気持ちです。日本の裁判所全体としても2人の年齢を考えると大変なことをしてしまっていると思う」と胸の内を明かしました。

やり直しの裁判で、検察は袴田さんの有罪を求める立証を行い、22日の審理では袴田さんに改めて死刑を求刑しました。
これについて村山さんは、「検察が有罪を立証する方針を決めた段階で、求める刑の重さとしては死刑しかないはずだ。検察の対応がどうだったのかは、事後的に検証されるべきだ」と述べました。

再審の審理の最後には、袴田さんの姉のひで子さん(91)が意見を述べ、「58年闘ってまいりました。私も91歳、弟は88歳でございます。余命いくばくもない人生かと思いますが、弟巌を人間らしく過ごさせてくださいますようお願い申し上げます」と訴えました。
村山さんは、「ひで子さんらしいことばで、胸が詰まります。大変苦しい状況に置かれた袴田さんを長く支えてきたひで子さんだから言えたことばだろうと思います」と述べました。
そして、ひで子さんについては、「多大な犠牲を強いられている状況の中で、おおらかさや優しさをもっておられる。人間の大きさが私には想像つかないぐらいで、こういう方と出会えてよかったなと思います」と話しました。

再審は、ことし9月26日に判決が言い渡されることになりました。
村山さんは10年前に出した再審開始決定の中で、捜査機関が証拠をねつ造した疑いがあると言及しています。
これについて村山さんは、「この問題に踏み込むかどうかはいま審理をしている裁判体にしかわからないことだと思う」と述べた上で、「相当しっかりと審議されたとお見受けしているので、十分検討した上で説得力のある判決を言い渡してもらいたい」と話しました。
そして最後に、「再審の判決がもっと早くなされるべきだったが、ようやくここまで来たので判決が本当に待ち遠しい」と話していました。