袴田巌さん再審が結審 検察は死刑求刑 弁護団は無罪主張

58年前、静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直しの裁判で、検察は改めて死刑を求刑し、弁護団は無罪を主張しました。
審理の最後に、袴田さんの姉のひで子さんは「弟巌を人間らしく過ごさせてくださいますようお願い申し上げます」と訴えました。

58年前の1966年に今の静岡市清水区でみそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審は、去年10月から静岡地方裁判所で行われてきました。
最大の争点は、事件の発生から1年2か月後に現場近くのみそタンクから見つかり、有罪の決め手とされた、「5点の衣類」に付いていた血痕に赤みが残っていたことが不自然かどうかです。
22日の審理で検察は「1年あまりみその中に入っていた衣類の血痕に赤みが残る可能性はある」などとして、袴田さんが犯行時に着用した衣類だと主張しました。
また、東京高等裁判所が去年3月に再審を認めた決定の中で言及した捜査機関によるねつ造の疑いについては、「非現実的で実行不可能な空論だ」として否定しました。
その上で「被害者4人の将来を一瞬にして奪った犯行の結果は極めて重大だ」と主張し、改めて死刑を求刑しました。
一方、弁護団は「専門家による鑑定などで、1年以上みそに漬けられた血痕に赤みが残ることはないことが明らかになった。衣類は捜査機関が巌さんを有罪にするために隠したとしか考えられない」などとして、証拠がねつ造されたと主張しました。
その上で、「もう一度この場で確認します。袴田巌さんは無罪です」と述べた上で、「日本の裁判所がどのように正義を実現するか注目されている。この裁判で明らかになった捜査機関の不正や違法な行為をはっきりと認定していただきたい」と訴えました。
そして最後に、再審での出廷が免除された袴田さんに代わって、姉のひで子さん(91)が意見を述べました。
ひで子さんは袴田さんが逮捕されたあと母親に宛てた手紙の内容を引用し、「母さんの夢を見ました。お母さん、遠からず真実を立証して帰りますからね」と述べました。
その上で「58年闘ってまいりました。私も91歳、弟も88歳でございます。余命いくばくばかりの人生かと思いますが、弟巌を人間らしく過ごさせてくださいますようお願い申し上げます」と声を震わせながら訴えました。
法廷での審理は22日ですべて終わり、判決は9月26日に言い渡されます。

【遺族「4人の命が奪われたこと忘れないで」】
22日の法廷では、事件で亡くなった専務夫婦の孫にあたる男性の意見書を検察官が読み上げる形で遺族の意見陳述が行われ、「事件で尊い4人の命が奪われたことをどうか忘れないでほしい」と訴えました。
意見書の中で男性は、専務夫婦の長女である、自身の母親について触れ、事件のあと、計り知れない悲しみの中、重度の病気を患っていたと明かしました。
事件後の様子については、「何十年も毎日毎日自宅の仏壇の前では涙を流し、『さびしい。ひとりぼっちになっちゃった』と悲しみながら問いかける姿や、犯人に対する憎しみの思いからか周りからは見ていられないつらそうな姿は、今でも忘れません。1日の大半がそのような過酷な状態だった」などとしています。
母親はテレビやインターネットなどで外部からの情報を得ることなく生活し、再審請求が行われたことも知らなかったということで、10年前再審開始の決定を知ることなく病気で他界したということです。
一方、ネット上に今も、事実と異なり、根拠がなく、母親に対して悪意ある書き込みが多数あることに悩んでいるとして、「母親は、1度に家族4人を失った被害者であり、幸せな人生を奪われたことを強く訴えたい」と述べました。
そして、今回の再審について、「真実は決して変わること消えることなく、永遠に存在する。再審では重要な事実を再度、精査して真実を明らかにしてほしい」と訴えました。

【裁判のあと 姉のひで子さん「大変長かった」】
裁判のあと、袴田さんの姉のひで子さん(91)と弁護団が会見を開きました。
会見の冒頭、ひで子さんは、「本当にほっとしております。午後からの弁護士さんの反論はすばらしくよくて、これで勝ったようなものだと思っております。判決まではちょっと一服しようと思っております。みなさま長い間ありがとうございました」などと述べました。
また、22日朝、自宅を出発する際、袴田さんに「静岡に行くのはきょうでおしまい」などと声をかけたということで、「『ああそう』と言っていました。たぶん、わかっていると思う。判決の9月26日になったら、わかるかわかりませんが巌に説明しようと思っています」と話しました。
そして、「知らないうちに58年が過ぎてしまいました。この1年の方が尊いと思っています。大変長かった。死刑求刑は検察側の都合で言っていることだと思い姉のひで子さんます。巌は無実ですから、判決は無罪だと思います」と判決への期待を述べました。
弁護団の事務局長の小川秀世弁護士は「5月に袴田さんの様子を見て、まさに妄想の世界でしか生きていないということを実際に改めて感じて、ひどすぎると思った。死刑判決のえん罪というのは本当に回復しがたいダメージを与えてしまう。死刑制度自体存続すべきでないと確信している」と述べました。