観光バス横転事故 元バス運転手に禁錮2年6か月の実刑判決

去年10月、静岡県の富士山の5合目から下る道路で、観光バスが横転して29人が死傷した事故で、過失運転致死傷の罪に問われた当時のバスの運転手に対し、静岡地方裁判所沼津支部は「多くの命を預かる立場にありながら、運転上の注意を守らずに事故を引き起こした」として禁錮2年6か月の実刑判決を言い渡しました。

去年10月13日、静岡県小山町の富士山の5合目から下る県道で、日帰りツアーの乗客と乗員、36人が乗った観光バスが横転して当時75歳の乗客の女性が死亡し、28人が重軽傷を負いました。
この事故では、フットブレーキを使いすぎる操作ミスが原因で、ブレーキがきかなくなる「フェード現象」が生じたなどとして、当時、バスを運転していた野口祐太被告(27)が過失運転致死傷の罪に問われました。
裁判で元運転手は起訴された内容を認め、検察は禁錮4年6か月を求刑していました。
26日の判決で、静岡地方裁判所沼津支部の野澤晃一裁判官は「観光バスの運転手として多くの命を預かる立場にありながら、基礎的知識に属する運転上の注意を守らずに事故を引き起こしていて、過失の程度は重い」と指摘しました。
その上で、「1人の被害者を死亡させ、複数の人が腕の切断や骨折などの重い傷害を負っていて、結果は非常に重大だ」として元運転手に禁錮2年6か月の実刑を言い渡しました。
最後に裁判官は、「亡くなられた方のご遺族や被害者とそのご家族の苦労は続いていくので、誠実に向き合って対応していただきたい」と語りかけました。
判決の言い渡しのあと、元運転手は被害者として裁判に参加した遺族や、傍聴席にいる当時の乗客に向かって、深く頭を下げていました。

元運転手の判決について、バスを運行していた「美杉観光バス」は、「厳粛に受け止め、さらなる安全管理や乗務員の指導などを徹底してまいります。被害にあわれたお客様や関係する皆様に、多大なるご迷惑とご心配をおかけしたことを深くおわび申し上げます」というコメントを出しました。

【元運転手「フェード現象」想定できていなかった】
これまでの裁判で元運転手は起訴された内容を認め、「短時間で『フェード現象』が生じることを想定できていなかった」と、当時の考えを明らかにしています。
元運転手はおととし7月に埼玉県飯能市の「美杉観光バス」に入社。
去年10月13日には富士山5合目などを巡る日帰りのツアーの運転を担当し、現場の県道を初めて運転しました。
検察の冒頭陳述によりますと、元運転手は大型バスの免許を取る際の教習などを通じて「フェード現象」について認識していたものの、めったに起きることのない非常時の出来事だと思い込み、身近なものとは考えていなかったということです。
元運転手は、富士山の須走口五合目を出発してまもなく、中高速のギアにあたる「4速」にギアを入れ、フットブレーキを多用しながら坂を下りました。
急カーブにさしかかるたびにフットブレーキを強めに踏んでバスを減速させていましたが、出発から約10分後、4.6キロ走行した時点で、「フェード現象」を生じさせたとしています。
元運転手はサイドブレーキを引きましたが「フェード現象」によってブレーキがきかず、バスは時速約93キロまで加速して道路の左側にあるのり面に乗り上げ、横転したということです。
被告人質問で元運転手は、「坂を下り始めてわずか10分という短時間で『フェード現象』が起こることを全く想定できていませんでした。フットブレーキを使用すれば、4速のギアでも下れると安易に考えてしまいました。4速のほうが揺れが少なくなると、乗客の乗り心地も考えました」と当時の心境を明かしました。
その上で、「浅はかな判断で、未熟な運転技術については弁解の余地もありません。取り返しのつかない事故を起こし、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」と謝罪しました。
検察は「エンジンブレーキを活用し、フットブレーキの使用を極力控えていれば、事故の発生を回避することは容易だった。初歩的な注意義務を怠った被告の過失は極めて重大だ」として、禁錮4年6か月を求刑していました。
一方、弁護側は、「被告はミスを素直に認めて面会が許された被害者には直接謝罪し、今後、一切車に乗らないことにしている。刑務所ではなく社会での更生が望ましい」と主張していました。