通園バス内置き去り 3歳女児死亡から1年 悼む声相次ぐ

牧之原市の認定こども園で当時3歳の女の子が通園バスの車内に置き去りにされ、重度の熱中症で亡くなった事件から5日で1年です。
バスが止められていたこども園の駐車場などに設けられた献花台にはけさから多くの人が訪れ、女の子を悼んでいます。

去年9月5日、牧之原市にある認定こども園「川崎幼稚園」の駐車場に止められた通園バスの車内に、園に通っていた河本千奈ちゃん(当時3)が約5時間にわたって置き去りにされ、重度の熱中症で亡くなりました。
事件の発生から1年となる5日、バスが止められていたこども園の駐車場と園舎の前に献花台が設置され、多くの人が花や飲み物を手向けて千奈ちゃんを悼んでいました。
子どもと一緒に訪れた静岡市の30代の女性は、「娘と歳が近いこともあり、1日も忘れたことがなく、自分にとっても辛い事件でした。千奈ちゃんに『忘れたことはないよ』と心の中で声をかけました」と話していました。
また、川崎幼稚園に通っていたという島田市の40代の女性は、「通っていた園なので複雑な思いもありますが、両親のこの1年間の気持ちを考えると、同じ立場だったら生きていく気力もないくらい辛いことだと思います」と話していました。
今回の事件をめぐっては、バスを運転していた当時の園長ら4人が安全管理を怠ったとして、業務上過失致死の疑いで書類送検されていて、今後、検察が起訴するかどうか判断することになります。

《献花台に献花に訪れる人相次ぐ》
こども園の駐車場に設けられた献花台には、5日朝から献花に訪れる人が相次いでいて、千奈ちゃんを悼む声が聞かれました。
千奈ちゃんの父親と息子が同級生だという藤枝市の60代の女性は、「『ずっと忘れないよ』という気持ちと、両親の気持ちが少しでも安らかになるようと願って、初めて献花に訪れました。これからも苦しみが続くと思うといたたまれないので、園にはご両親の気持ちを第一に考えて対応してほしいと切に思っています」と話していました。
同世代の子どもがいるという牧之原市の40代の女性は、「同じ親として本当に悔しく、かわいそうです。園の対応も遺族に寄り添っていないように感じ、不満があります」と話していました。
また、東京に住む50代の女性は静岡市の実家から献花に訪れ、「周りを明るくするようなお子さんだったのかなと思い、ひまわりの花を手向けました。小さい子が暑い中ずっと耐えていたのかなと思うと、かわいそうです。前の年に福岡で同様の事件があったときにバスへの安全装置の設置が義務化されていれば防げたと思う」と話していました。

《保護者“今でも事件のことが頭をよぎる”》
事件の発生から1年となることについて、子どもが川崎幼稚園に通っている牧之原市の30代の女性は、「今でも別の園のバスを見かけるたびに、事件のことが頭をよぎります。まだまだみんなの心の中に大きく残っていて、普通の園になるのはいつになるのかと考えてしまいます。もう二度と子どもの心に傷が残るようなことを起こしてほしくありません」と述べました。
今回の事件の原因について園では、出欠の管理に利用していたアプリの確認が不十分で、千奈ちゃんが教室にいなかったのに保護者に問い合わせをしないなどのミスが重なったと説明しています。
事件を受けた園の対応について女性は、「保護者は午前9時までにアプリで出欠などの連絡をすることになっていて、連絡するのが遅れた際、9時5分には園から確認の連絡があった」と述べ、出欠の管理を徹底するようになったと感じたということです。
一方、今もバスによる送迎が再開されていないことについては、「再開してもらえると便利ですが、そんなに簡単なことではないと理解しています」と話していました。

《こども園を運営する増田多朗理事長の会見》
事件の発生から1年となるのにあわせて、こども園を運営する増田多朗理事長が4日、取材に応じました。
冒頭で増田理事長は、「千奈さんの幼く尊い命を奪ってしまったことに対し、心よりご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の皆様に心よりおわび申し上げます」と改めて謝罪しました。
そして、遺族への対応については、「去年9月から園の関係者で定期的に自宅を訪問して謝罪してきました。当然ながら賠償については、誠心誠意対応してまいります」と述べました。
増田理事長によりますと、父親で当時、バスを運転していた増田立義元園長は、毎朝、駐車場を訪れて手を合わせているということです。
また、園では千奈ちゃんの慰霊碑を設置しようと考え、遺族にも説明した上で準備を進めていましたが、その後、遺族から要請があったため中止したということです。
増田理事長は、この1年間に再発防止のために行ってきた取り組みとして、「外部から複数の専門家を招いて継続的な講習を受けている。これまでは園の方針などを管理職が主導で決めていたが、いまは職員主導で決めるようになり、安全管理についてみんなで話し合う風土ができた」と述べました。
一方、遺族が園を廃園にするよう求めていることについては、「ご遺族の悲痛な思いは十分理解しているが、希望者がいる以上は、園の継続はしていかなければならない」と述べ、今後も運営を続ける考えを示しました。
ただ、バスでの送迎については、再開のメドはたっていないということで、関係者によりますと、事件の前に運行していた3台のバスのうち1台は処分したということです。
園によりますと、去年は事件のあと、21人の園児が転園し、11人の職員が退職した一方で、今年度には23人の園児が入園し、9月1日の時点で在籍する園児の数は110人だということです。
園では5日、職員全員で黙とうし、増田理事長がこの1年を振り返った上で、安全管理の体制について改めて確認したということです。