【解説】川勝知事給与返上問題(1)なぜ一転返上?

いわゆる「コシヒカリ発言」でおととしの議会で辞職勧告決議を受けた静岡県の川勝知事が、一度返上の意向を示したボーナスや給与を返上していなかった問題で、川勝知事は、閉会するはずだった12日の県議会で、条例案を提出して返上することを改めて表明しました。なぜ、こうした事態になってしまったのか、振り返ります。
(静岡局・仲田萌重子、7月12日放送)

【始まりは不適切発言】
始まりはおよそ1年半前にさかのぼります。川勝知事は、おととし10月の参議院補欠選挙で、応援する候補の演説に立ち、対立候補である自民党公認の元御殿場市長を揶揄しました。
(川勝知事)
「あちらはコシヒカリしかない。だから飯だけ食ってそれで農業だと思っている」
この発言に御殿場市民をはじめ県民から批判が相次ぎ、県議会も問題視。11月に戦後初となる知事への辞職勧告決議を可決しました。可決後、知事は続投としながらも、12月の給与とボーナスの返上を表明しました。
公職選挙法では、知事の寄付は禁止されており、一度支給されると返上ができないことから、知事が給与などを返上する際は、条例の改正が必要ですが、直後の12月の県議会では提出が間に合いませんでした。ただ、川勝知事は、議員の代表質問で「今後も返上の意思は変わらない」と答弁しています。当時のNHKの取材では、県の事務方が「来月以降の給料で返上するなど対応を検討する」と回答しています。

【1年半後の所得公開で…】
ところが。ことしの7月3日に条例に基づいて、知事の去年1年間の所得が公開されたのですが、その際に、私は、給与およそ1980万円の内訳を確認しました。そうすると、知事職の給与とボーナスが満額支払われていたのです。
この理由を聞いたところ、川勝知事は秘書課を通して「熟慮した結果、発言へのけじめは 知事の職責を果たすことだと思い至った」とコメントし、返上しない意思を示しました。これを受けてNHKはその日にニュースでお伝えしました。

この間、知事から返上を断念する発言はありませんでした。だからこそ、3日に報道した後、この知事の対応について、県に苦情が殺到し、「自ら表明したなら返上するべき」などの意見が11日の夕方までに390件寄せられました。
また、県議会の総務委員会でも「執行部側が知事に進言すべきだった」、「知事は身の処し方を示すべき」、「言行不一致」などの厳しい意見が相次ぎました。
そして12日、改めて返上を表明するに至った訳です。

このとき、疑問は大きく2つありました。なぜ返上しなかったのか。そして、なぜ返上しないことを表明しなかったのか、です。

【なぜ返上しなかった?】
まず1点目のなぜ返上しなかったのか。知事はこれまで提出を見送ってきた理由について、「議会から理解を得られなかった」と繰り返し釈明しています。県の関係者に取材をすると、おととし12月の時点では、条例の改正に向けて、当時の議長や副知事らが水面下で調整を進めていました。
ただ、知事と対立する議会の最大会派、自民改革会議内では「辞職が筋で返上では済まさない」ですとか「440万円では少ない。退職金を返上するべき」などという声もあり、議論は平行線のままだったと言います。その後、知事も執行部側に働きかけをしなくなったようです。

【なぜ返上しないことを表明しなかった?】
ここで2点目の問題。返上が難しいなら、断念するという公式の表明があるべきではなかったのか、ということです。
川勝知事は2009年に初当選した際、選挙のマニフェスト通りに退職金を支払わない条例案を提出しています。今回、水面下の調整で議会の承認が得られなかったとしても、知事の姿勢として、議会の場に改正案を提出して議論した上で、否決されても良かった訳です。

これについて、川勝知事は11日の会見で次のように述べました。
(川勝知事)
「条例は通してもらうために出すものだ。なので、根回しして基本的に出せないと思った」

【発言に責任を、議会も監視を】
今日の議会でも、川勝知事は謝罪はしたものの、「条例案を提案したいとの思いは変わっていない」と発言していました。ただこれも、当初私たちには「熟慮の結果、返上しないことにした」と回答していて、矛盾していると思います。
実際、今回の知事の所得の公開をきっかけに報道するまでの1年半、事実上放置していた状況になっていました。県民の負託を受けた知事の発言には責任が伴うことは当たり前の話です。川勝知事は、4期目も折り返しになり、説明を尽くすことに緩みが出ていないか改めて考えてほしいと思います。