【記者解説】バス横転事故1週間 なぜ事故は防げなかったのか
静岡県小山町の富士山の5合目から下る道路で観光バスが横転し、乗客1人が死亡、乗客と乗員あわせて26人が重軽傷を負った事故から10月20日で1週間になりました。
秋の行楽シーズンに、富士山などをめぐるツアーで起きた痛ましい事故は、どのように起き、なぜ防ぐことができなかったのか。
担当記者が解説します。
(静岡局記者・平田未有優)
(キャスター)
バスが事故を起こすまでの状況を説明してください。
(記者)
事故は10月13日、小山町の富士山の5合目から下る県道、通称「ふじあざみライン」で起きました。
バスは午前11時40分ごろに富士山の須走口五合目を出発。カーブが続く山道を5キロ余り下った地点で、出発から10分後の午前11時50分ごろ、横転しました。
道路の法定速度は時速30キロですが、捜査関係者によりますと、バスは当時、この2倍以上のスピードが出ていたとみられるということです。
(キャスター)
警察などが18日に押収した車体を検証したということですが、事故の原因に関して何が明らかになったのか、整理してください。
(記者)
まず、ブレーキの仕組みについて説明します。
事故を起こしたバスは、「ドラム式」と呼ばれるブレーキシステムを使っていました。
フットブレーキを踏むと、車輪の内側につけられたドラムにブレーキシューという部品が押し当てられ、その摩擦でブレーキがきく仕組みになっています。
関係者によりますと、今回の検証では、ドラムとブレーキシューの双方に焼けた跡が確認されました。
さらに、ドラムには、摩擦の熱で生じたとみられる「ヒートクラック」と呼ばれる亀裂も見つかったということです。
警察は、フットブレーキを使いすぎてブレーキシューが過熱し、摩擦力が弱まってしまい、ブレーキがきかなくなる「フェード現象」が起きたとみています。
(キャスター)
バスは運転してからおよそ10分後に事故を起こしたということですが、短時間でも「フェード現象」は起きるのでしょうか。
(記者)
専門家は、バスは乗用車よりも重量が重いことから、短時間でもフェード現象は起きる可能性があると説明しています。
(日本交通事故鑑識研究所 大慈彌雅弘代表)
「乗用車に比べて大型バスは重量が10倍から20倍はあるので、極端に言うと10倍重たい荷物を背負っているようなものです。例えば、乗用車なら1トンの車体を止めればよいですが、10トンの車体を止めるためにブレーキを使うと、10倍の負荷をブレーキにかけることになります。今回の事故でも、ブレーキをかけすぎたことで大きな圧力がかかり、ドラムが悲鳴をあげたと思われます」
(キャスター)
バスには、サイドブレーキが設置されていると思いますが、今回は使われていたんでしょうか。
(記者)
捜査関係者によりますと、サイドブレーキは引かれているのが確認されたということです。
横転したバスでは、サイドブレーキを使った場合でも、ブレーキシューがドラムに押し当てられてタイヤの動きを止める仕組みになっていました。
このため、「フェード現象」が起きている状態では、効果がなかったとみられます。
(キャスター)
「フェード現象」による事故を起こさないためには、どうすればよいのでしょうか。
(記者)
専門家は、長い下り坂の走行では、エンジンブレーキや補助ブレーキを使う必要があると指摘しています。
(日本交通事故鑑識研究所 大慈彌雅弘代表)
「バスには排気ブレーキ(補助ブレーキ)がついているので排気ブレーキを使い、エンジンブレーキも使って、とにかくフットブレーキを踏まないようにするのが原則です。今回事故を起こした運転手は、普通の乗用車感覚でブレーキを使っていたのではないでしょうか。バスの運転手は人命を預かっていることを常に意識してほしい」
(キャスター)
特に大型のバスでは、エンジンブレーキなどを活用することが必要なんですね。今後の捜査はどのように進められる見通しですか。
(記者)
警察は、近く運転手を立ち会わせて現場検証を行い、当時の状況をさらに詳しく調べることにしています。
また、バスの運行会社によりますと、運転手は、同じコースで過去に乗務した経験がなく、事故当日が初めてだったということです。
警察は、会社への捜索で押収した資料を分析するなどして、会社の安全管理や運転手の勤務実態などに問題がなかったかどうかも調べることにしています。