米ツアーから帰国・フルート古川はるなさん(6月2日放送)

静岡市在住のフルート奏者、古川はるなさん。2019年に国際的な音楽コンクールで優勝し招待されていた海外ツアーが、コロナ禍をへてこのほど3年越しに実現し、5月にアメリカから帰国しました。ニューヨークのカーネギーホールを含む12か所で演奏してきた古川さん。今回の経験や、コロナ禍で音楽家として考えたことをたっぷり伺いました。
(キャスター・安川侑希/文化担当記者・三浦佑一)

【演奏は動画から タイスの瞑想曲/作曲:ジュール・マスネ】

【伸びやかな音色を支えるのは・・・】
(安川)プロの方の演奏、この距離で味わわさせていただくのは初めてなんですけれども、優しくて丸みのある音の中に、力強さだったり迫力があって、ドンと胸に響いて、胸がドキドキしています。
(三浦)この距離で聞くと、吹く息の音まで響いてくるんですけれども、伸びやかな音色の裏では、相当な肺活量が求められるのではないでしょうか。
(古川はるなさん)
「そうですね。フルートは吹いた息の半分しか音にならない楽器なので、相当、肺活量は使います。私、最近病院でレントゲンを撮ったときに、病院の先生から『肺がすごく大きいね』と驚かれました」

【コロナ禍をへて】
(安川)古川さんは2019年8月にイタリアで開かれた、世界中の音楽家が楽器や歌などのジャンルを超えて競う『イブラ・グランド・プライズ国際音楽コンクール』で優勝されました。本来でしたらおととしの5月にワールドツアーを行う予定だったんですが、新型コロナが世界に広まってツアーが中止になってしまいました。音楽家としてステージに立つ機会を失ってしまう、どんなお気持ちだったんですか。
(古川はるなさん)
「何十回というステージのチャンスが失われてしまったのですけれども、その時はもう世界中が大変な状況だったので。あまり自分のことというよりは、ただただ起こっている状況を見守るしかなくて。
 そのうちに空いてしまった時間を、サバティカル(長期休暇)期間といって、充電というか自分を見つめ直すような時間にあてようというふうに考えて。フォームの根本的な見直しをしたり、研究のために積んでおいた本を読み始めたり。私は演奏活動を20年ほど続けてるんですけれども、その間に付いてしまった癖を一から見直す時間をいつかはとりたいなと思っていたので、ちょうどといったらなんですけれども、よい時間になったかなというふうに思っています」

(三浦)そうした中でアメリカでもワクチン接種が進んだということで、4月下旬から5月上旬にかけてアメリカツアーが行われたということです。ホールでの演奏はもちろんですが、小学校での演奏、そしてレストランでの即興と、さまざまなステージを経験されて5月16日に帰国されたばかり。アメリカ、いかがでしたでしょうか。
「アメリカを2週間ぐらいかけて回りましたけれども、いろんなジャンルの曲を用意していって。中にはすごく難しい現代曲もありましたが、そういう曲でもアメリカの方たちがオープンマインドに受け入れて、コンサートが終わるといつもスタンディングオベーションで拍手をしてくださって。終わった後、アフターパーティとかおうちでのレセプションとかもあったんですけれども、そういう時にも『どういう曲なの?』とか感想を口々に言ってくださったり。曲に対してというだけではなくて、演奏家、音楽家としての個の自分自身を見て感想を言いに来てくださったり。私自身が何をやりたいかということに理解をしてくださる方が多くて。嬉しかったです」
(安川)あのカーネギーホールでも演奏されたんですよね。
「カーネギー、中の装飾が本当に美しくて。あとバックステージには名だたる伝説の名演奏家たちの写真がずらっと並んでいて。同じ舞台に自分が立てるんだという幸せな気持ちと、身の引き締まる思いと、いろんな感情が湧き上がりました」
(安川)日本の街中ではまだまだ大半の方がマスクをしていますけれども、このアメリカのお写真を見る限りはノーマスクが多いんですね。
「そうですね。レストランもそうですし、街中でも、特に地方ではマスクをしている人はほぼ見かけませんでした」
(三浦)こちらは“COVIDー19 Testing”とありますけど、テントのように見えますが、これ検査の場所なんですか?
「そうです。この写真はニューヨークなんですけれども、無料で受けられる検査のテントが数ブロックごとに設置されていて、誰でも受けられるんですね。QRコードで登録をして、次の日までにはメールで結果が来るという。すごく便利なシステムで、私たちもカーネギーホールに入る前日にはここで検査をして、この結果をカーネギーに伝えて中に入ったという形です」
(三浦)検査はより街中で身近にあるということなんですね。

【忘れていた“人のぬくもり”】
(安川)日本でもマスクを外す場面っていうのが徐々に増えてきて、イベントも再開されつつありますけれども、古川さんの音楽との向き合い方って何か変化ありそうですか?
(古川はるなさん)
「今回アメリカに行って気づいた、すごく衝撃を受けたことは、やはりマスク生活が2年間続いて、人との距離をとることが前提にある環境の中で自分が何をしたらいいかということを考えていると、人間的な温かみとかヒューマニズムのような精神が知らず知らずのうちに自分の中から抜けていってしまったなってことをすごく向こうに行って実感したんですね。というのも、向こうの人たちが本当に暖かく私たちを迎えてくださったり。演奏仲間の素晴らしい人間的な心に響く演奏を聴いて、そんなことを思ったりして。すごくショックを受けたというか、失ってしまったものの大きさに気づいたんです。
 もちろん今後、アフターコロナで社会的な距離感をとりながら何かやっていくということを考えなくてはいけないのと同時に、それでもやっぱり音楽っていうのは、本当に人間の密な関わりの中で表現できるものというか、人間的な温かさを失わないようにまた見つけていけたらいいなというふうに思ってます。

【静岡が理想的な環境】
(三浦)静岡から世界に羽ばたく古川さんですけれども、私、偶然にも古川さんが静岡市の清水南高校で教育実習をされていた時の写真を見つけたんです。こちらです。
右側に写っているのが古川さんで、左側に生徒さん2人。実はこの写真を私に送ってくださった真ん中の、この時の生徒さん。1月に「たっぷり静岡」の新春インタビューにご出演いただいた静岡ご当地漫画「ローカル女子の遠吠え」の作者・瀬戸口みづきさんなんです!ちなみに左に写っているのは、今のNHK静岡のスタッフなんですね。
(安川)すごいつながりですね。
(古川はるなさん)
「私、この瀬戸口先生の漫画がすごく好きで愛読していたんですけど、まさかここで出会っていたとはつゆ知らず・・・」
(三浦)知らなかったんだ!
「そうなんですよ。この間知って、すごくびっくりしたという」
(安川)すごい縁があるんですね。
「静岡って、やっぱりこの街の規模感からか、こうしたご縁ってすごくたくさんあって。他人だと思ってたら実はどこかで繋がってたとか。こうやってNHKのスタッフの方とも再会できたりして、自分の過去が美しくなったというか。それで応援してくださる方も増えてきて、すごくありがたいなというふうに思ってます」
(安川)世界で活躍されていますけれども、拠点は静岡なんですね。
「そうです。ほかのところに住んでいたこともありますけれども、今は静岡で足場にして活動しています」
(安川)それはなぜですか?
「音楽をするとか、音を作るのって、やっぱり静寂さ、静けさが自分の人生の中ですごく必要な時間なんですね。大都会で人や物が24時間ずっと動いている場所だとやっぱりそういう時間が取れなくて。静寂の中に身を置いて、学びを深めていく。自分の内面を深めていくってことができるからこそ、人の中に入ってそれを表現することができる。そういう循環の中で生きて行くのがすごく理想だなというふうに私は思っていて。静岡はほどよく都会で自然もすぐ近くにあって、そういう環境に身を置くことが出来て、すごく理想的だなというふうに思っています。

(安川)それでは最後に古川さんがカーネギーホールでも演奏され一曲、お聴きいただきたいと思います。日本の武満徹作曲、VOICEです。

【演奏は動画から VOICE/作曲:武満徹】

(この古川さんのインタビューと演奏動画は「たっぷり静岡」番組サイトに写真付きで掲載しています。番組サイトは画面下方のバナーから入ることができます)