“「クラフトジン」を観光資源に” 新たな商品作り 川越

地域の特色を生かした酒「クラフトジン」が各地で作られ、人気を集めています。
埼玉県川越市の蒸留所で作られたジンは、国際的なコンテストで高い評価を受けました。
このジンをさらに特色を生かしたものにして観光資源にしようと、地元のバーの経営者たちも加わって、新たな商品作りが行われました。

ジンは、麦やトウモロコシ、サトウキビなどを原料にした蒸留酒で、「ジュニパーベリー」という針葉樹の実などで香りをつけたものが広く飲まれています。
さらに地域の特産品など、さまざまな素材を生かした香りや風味を付けた「クラフトジン」が、各地で生産され人気を集めています。
川越市郊外の昔ながらの武蔵野の雑木林が残る敷地の一角に4年前、地元の酒販店がジンの蒸留所を設けました。
社長の松崎裕大さん(35)は、この林で育つ植物を使ったジンを作りたいと、ジュニパーベリーが実る「セイヨウネズ」の木を植えて、林を整備してきました。
松崎さんは「12年前にうっそうとした林をきれいにしようと思って手を入れて、今では自信を持って見てもらえる林になりました。この場所を活用して、ここの魅力を多くの人に知ってもらいたいと思ったのがジンづくりを始めたきっかけのひとつです」と話しています。
松崎さんのジン作りは細部までこだわりを持っています。
ジン作りでは、ジュニパーベリーをスピリッツと呼ばれるアルコールに漬け込んで、香りや風味を引き出します。
このとき敷地内の井戸からくみ上げた地下水をタンクの周りに巡らすことで、年間を通して一定の温度を維持しています。
6日から7日程度、低温で漬け込むことで、じっくりと独特の風味を引き出せるということです。
この井戸水は、蒸留された後のアルコール度数を調整する過程でも使われています。
松崎さんは「漬け込みから蒸留までは時間のかかる手作業で、普通の蒸留所の5倍以上の時間をかけています。作業効率は悪くても、世界に通用するジンを作るには必須だと考えています」と話しています。
こうして作られたジンは針葉樹の葉と実にちなんで「棘玉」という商品名が付けられ、ことし2月にイギリスで開かれた国際的なコンテスト「ワールド・ジン・アワード」のひとつの部門で日本でいちばんすぐれたジンと評価されました。
こうした川越産のすぐれたジンをもっと広めたいと、地元でバーを経営するバーテンダーたちが、去年春、松崎さんに新たな商品作りを働きかけました。
きっかけはコロナ禍で多くの飲食店が時短営業や休業を余儀なくされたことで、バーテンダーの仲間で話し合う中でアイデアが出てきたといいます。
バーテンダーの1人、田坂行英さん(48)は「お酒の文化、バーの文化が広がるモデルケースになれば、活性化させるための起爆剤になればという思いがありました」と話していました。
目指したのはジンの香りづけに緑茶を使うオリジナル商品です。
玉露や煎茶、かぶせ茶などさまざまな種類の茶葉を使い、ジンとの配合の比率を変えることで、緑茶の香りや甘さがしっかり出るように、味のバランスを追求しました。
バーテンダーの1人、長門良樹さん(31)の手帳には試したブレンドの比率がいくつも書き込まれていました。
施行錯誤の末に、もともと47度だったアルコールの度数を40度に下げたジンと、かぶせ茶を入れて蒸留したものの比率を3対1とすることで、理想の味を実現できたということです。
長門さんは「元のジンのアルコール度数を下げることによってジン自体に丸みが出るので、さわやかなお茶の風味が入りやすく、引き立つ形になりました」と話していました。
一方、当初は地元産の狭山茶を使おうとしていましたが、コストなどの面から断念せざるをえなかったということです。
今月23日、メンバーが集まって、完成した緑茶のジンを試飲したあと、ボトルにラベルを貼り付けました。
茶畑の緑色をイメージしたラベルには通し番号が付けられていて、限定150本が川越市内のバーや飲食店で提供されることになっています。
蒸留所の社長の松崎さんは「妥協せずに何度もテストをしたので、全員が納得するジンができました。ジンを通じて川越のことや、その土地の魅力を伝えられるようになっていければと思います」と話していました。
バーテンダーの田坂さんは「期待以上の味わいでうれしくなりました。このジンを通してバーや飲食店で過ごす時間を楽しんでもらいたいです」と話していました。