滋賀医科大学の調査 車いすで乗車中の事故 過去5年6人死亡

滋賀県内でおととし(2022年)までの5年間に、車いすに座ったまま乗用車などに乗って事故にあい、車内で体を打つなどして6人が死亡していたことが、滋賀医科大学の調査で分かりました。
調査を行った専門家は、車のシートベルトでは車いすの人の体を適切に固定できていなかったことが原因とみられるとして「安全対策を根本的に見直す必要がある」と話しています。

調査を行ったのは滋賀医科大学の一杉正仁 教授です。
一杉教授が、警察から提供を受けた滋賀県内の交通死亡事故の情報を分析したところ、おととし(2022年)までの5年間に合わせて6人が、車いすに座ったまま介護施設などの車に乗車して事故に遭い死亡していたことが分かりました。
このうち、おととし2月に高島市の県道の交差点で、介護施設の車と乗用車が出合い頭に衝突した事故では、車いすに座ったまま介護施設の車に乗っていた80代の女性が頭を強く打って死亡しました。
一杉教授によりますと、女性は車のシートベルトを着用していましたが、ベルトが腰や胸に密着していなかったことで、事故の衝撃で体が大きく揺さぶられ頭を強く打ったことが、原因とみられるということです。
また、ほかの5件の事故でも、死亡した全員が車いすに座った状態で車のシートベルトを着用していましたが、ベルトが体に密着していなかったことなどから、事故の衝撃によって車内で頭を打ったり、ベルトに圧迫されて内臓を損傷したりしたことで死亡したとみられるということです。
道路運送車両法に基づく国の保安基準では、車いすは車の座席とはみなされていません。
また、車いすを載せることができる「福祉車両」の一部については車いす利用者が装着できるベルトなどの設置が必要とされていますが、座席のシートベルトのような強度などについての細かな基準はありません。
一杉教授は「車いす利用者の安全を確保するためには、衝突の衝撃に耐えられる車いすを開発するとともに、車いすそのものに体を適切に固定するためのベルトをつけるなど、関係者が連携して安全対策を根本的に見直していく必要がある」と話しています。

【車いすでの事故 実験では】
一杉教授は、車いすに座ったまま乗用車に乗って事故に遭った場合に体が受ける衝撃を調べるため、実験を行いました。
実験は、車いすの利用者を乗せたミニバンが、時速およそ50キロでほかの車と正面衝突したという想定で行われ、車いすには重さおよそ50キロのダミー人形を乗せ、肩や腰を固定する「3点式」のシートベルトを着けました。
一杉教授が滋賀県内の介護施設を視察した際に行われていた、車いすの車輪の上からシートベルトを着ける方法では、ベルトが人形に密着せず、衝突の瞬間に人形は前方に大きく揺さぶられ、車いすから滑り落ちました。
人形の腹部にはシートベルトが食い込んでいて、一杉教授は内臓損傷などの重傷を負う可能性があるとしています。
また、ベルトをできるだけ体に密着させるために、車輪の間からベルトを通した場合は、腹部への食い込みは弱くなりましたが、車いすの座る部分が壊れ人形は下に落ちていて、一杉教授は腰などを強く打って大けがをするおそれがあるとしています。
また、いずれのシートベルトの着用方法でも、肩にかけるベルトが胸を強く圧迫していてろっ骨が折れる可能性があるということです。
一連の実験で、衝突によって人形が前方に揺さぶられる動きは、人形を車の座席に座らせてシートベルトを着けた場合と比べて、最大で4倍あまりになっていたということです。