県内の製造業 ベトナムの“理系人材”に熱い視線

滋賀県は、県内総生産に占める製造業の割合が4割を超える、全国1位の「ものづくり県」です。
しかし、少子化などを背景に、特に中堅・中小企業の間では新卒を採用したくてもできない状況が続いています。
こうしたなかで関係者は、ベトナムの“理系人材”に熱い視線を注いでいます。

長浜市の資材関連企業は、6年前にベトナム人の採用を始めました。
成長著しいベトナムへの販路拡大を目的に現地法人を設立し、将来その経営を担ってもらう社員を育てるためでした。
それが、深刻な人手不足の対策としても効果が出てきています。
この企業で働くゲン・ヴィエット・クオンさん(27)は、正社員として採用され去年8月に来日しました。
ゲンさんは専門的な設計ソフトを使って、この企業の主力商品の1つである「プラスチック製段ボール」の設計・製造などを担っています。
大学時代に学んだ、設計ソフトの知識や経験が生かされているというゲンさんは、「日本での生活と仕事に夢を持っていました。知識と経験をベトナムに持ち帰り、両国の経済発展に貢献したいです」と話しています。

この企業の国内の採用試験の応募者数は、この10年で2割にまで減少。
背景には、少子化や学生の大企業志向などがあると言います。
一方で、ベトナムの若者は「専門性を生かせるかどうか」を重視する傾向が強く、中堅・中小企業でも優秀な人材を獲得できるチャンスがあることがわかりました。
そのため、彼らが働きやすい環境を会社を挙げて整備。
特に、入社後の3か月間は就業時間中に日本語学校に通ってもらうなど手厚い支援をアピールした結果、これまでに10人余りの理系人材を採用できました。
森和之社長は「長浜市がある県の北部地域ではどんどん人材が減っている。核となる人材をどこで採用するかとなると、今のところはベトナムからの採用が非常に近道だ」としています。

こうした企業を後押ししようと、滋賀県も取り組みを進めています。
注目したのは、ベトナムの首都にあるハノイ工科大学。
国内最大の技術系総合大学で、専門知識を身につけた人材が幅広い分野にそろっているのが特徴です。
滋賀県はおととし、日本の自治体としては初めて人材確保に向けた連携協定を結び、大学内で日本語を学ぶ授業を提供。
あわせて滋賀県の魅力を伝え、就職先として考えてもらおうというねらいです。
この夏には初めて日本語教室の参加者のうち11人に来日してもらい、企業でインターンシップを実施しました。
このうち2人は、甲賀市などに工場がある鉄鋼部品メーカーを訪れました。
学生たちは、船や建設用の重機などの部品として幅広く使われるリング状の主力製品を製造する工程を見学し、積極的に質問していました。
この企業の坂口康嗣社長は「県がいろいろと動いてくれたので、これがずっと続いて多くの優秀な人材が滋賀県に入ってくればうれしい」と手応えを感じていました。
滋賀県産業ひとづくり推進室の森安弘室長も「ハノイ工科大学からの学生が滋賀県内で活躍し、それがベトナムに伝わって学生が安定的に滋賀県に来るようになれば、企業側の採用もさらに増えてよいサイクルを生み出していける」と期待を寄せています。