津波警報 避難に課題は? 専門家調査に同行

4月3日に台湾付近で発生した大地震に伴い津波警報が発表されました。災害時の避難行動について研究している専門家が県内を訪れ、その調査に同行しました。
(NHK沖縄放送局 河合遼)

【避難行動の専門家が聞き取り】
災害時の避難行動を研究する東京大学大学院の客員教授、松尾一郎さんです。沿岸部を抱える宜野湾市の住民にヒアリングをするなど、5月2日と3日、調査を行いました。
松尾さんが訪れたのは西海岸に面した伊佐地区です。
自治会長の安良城さんと防災上の課題を確認しました。地区の大部分は海抜10メートル以下で津波の浸水想定区域に入っています。

【浮かんだ2つの防災上の課題】
この地域の防災上の課題として、2つのことをあげました。
1つ目は、地区を流れる川です。海から津波が遡上する可能性を指摘しました。

(東京大学大学院 松尾一郎客員教授)
「今、満潮じゃないんですけど満潮の時はちょっと高くなるでしょう。あわせて津波がこれに上乗せされるので、下手したら4〜5メートルの津波が来たらもう氾濫するんでしょうね。だからよく、東日本震災もそうなんですけど、目の前の津波じゃなくて後ろから津波が来るとかね。回り込んでこういうところの河川がずっと遡上してきて、津波があふれて襲ってくる」

2つ目は堤防の管理についてです。人が出入りできるスペースが空いた状態になっていて津波が入り込むおそれがあるほか一部にはヒビが入っていて、堤防が壊れる可能性があるといいます。

(東京大学大学院 松尾一郎客員教授)
「こういう弱いところは意外と強い波が来ると、そこから壊れ始める可能性があるんですよ。水がしみ出すかもしれない。今度、土木(堤防の管理者)に話しをする時に当然ここに来て話をするんでしょうから、こういったところもちゃんとちゃんとやっといてね。気になるよって」

【8割が避難も、課題が】
およそ4000人が暮らす伊佐地区。自治会によりますと、当時、地区にいた8割ほどが避難したとみられています。
一方、課題も見えてきました。
お年寄りの見回りなどを行う民生委員への聞き取りから、一部の高齢者が津波警報の発表に気づいていなかったことが分かりました。

(民生委員 伊佐悦子さん)
「1人暮らしでご高齢でテレビを見てなかった、知らなかった。近所の人が逃げていく時に声をかけてもらって、津波が来るよと言われて屋上に逃げましたという人が1人。もう1人の方は、耳が全く聞こえなくて1人暮らしで、その方のところに行ったら、『こないだの津波の時どうしましたか』って言ったら『わからんかったよ』って、完全に分からなかった。分からなかった。これほんとに来てたら、アウトのパターンだよなと思って」

(東京大学大学院 松尾一郎客員教授)
「災害は地域で発生します。その地域に暮らす最終的には、やっぱり災害に弱い人が亡くなるんですよ。要支援者であったり一般市民であったりあるいは消防団とか民生委員とか、手助けしようとして活動されてる方が、犠牲となるケースが、多いんですね。消防団や民生委員児童委員の方の命が守られる、加えて要支援者の方々が、救われる社会を作るとすれば、あらかじめみんなで逃げる社会を作っていかなきゃいけない」

【“命を守るための計画を”】
地域に暮らすすべての人の命を守るにはどうすればいいのか。
松尾さんは、地元に根ざしたきめ細かな避難計画を作ってほしいと呼びかけています。

(東京大学大学院 松尾一郎客員教授)
「自治会・町内会、あるいは自主防災会、それぞれの単位で、防災計画を作っていくっていうのが、正式な形で地区防災計画って言われてるんです。みずから作った計画に基づいた避難だからこそ、皆さんやるんです。逃げるべき災害は、地域で発生するし、地区で発生するし、そこに暮らす人たちが、本当に考える、考えて作る防災計画、そういう地区防災計画を沖縄県は目指してほしいと思います」

【必要な計画とは? 記者解説】
東京大学大学院の松尾一郎客員教授も携わった太平洋に面した三重県紀宝町にある鵜殿区と呼ばれる地区の「地震・津波ルールブック」です。自治会などで地区ごとに作る「地区防災計画」より踏み込んだ内容になっていて、自治会よりさらに細かい、組と呼ばれるグループごとに作った避難マニュアルです。想定される津波の高さや到達までの時間、周辺の危険箇所マップなどが掲載されています。
こちら「避難カルテ」のページには、津波が来た際にどこに避難するのか、避難の際に支援が必要な人などについてワークシート形式で書き込むことが出来るようになっています。
松尾さんは、こうした計画作りを推奨しています。
今後、松尾さんは、住民への詳細なアンケート調査を行うことを検討しています。
そして、沖縄が津波の犠牲者ゼロの地域になるよう協力していきたいと話しています。