竹富町が導入をめざす「訪問税」その狙いとは

美しい島の風景や海に触れようと日本全国から多くの観光客が訪れる竹富町では、全国的にも珍しい「訪問税」の導入が検討されています。いま美しい島々で何が起きているのか取材しました。

(NHK沖縄放送局記者 後藤匡)


【課題への対策は待ったなし】

9つの有人島からなる竹富町。町の人口は4000人あまりなのに対して、年間に訪れる観光客はコロナ禍前は102万人あまりに上りました。去年は83万人あまりとピーク時の8割まで回復し、景気にとって明るい材料となっています。

ただ、課題への対策も待ったなしとなっています。

まずは観光客が持ち込むゴミへの対応です。ルールを守らずゴミを捨てる人が相次ぎ、町の予算で船会社のスタッフが対応を余儀なくされています。

一方で、観光客を呼び込むための取り組みも欠かせません。島で快適に過ごしてもらうためWi−Fiを整備。港のトイレは洋式に変えました。

町はこうした対応にここ数年、年間におよそ10億円を支出。決して多くない予算の中でなんとか捻出しているといいます。

自主財源を確保しようと、町は去年6月に訪問税の導入にむけて検討を始めました。訪問税は島を訪れる人に対する税金です。ただし、町民や町内の事業者や学校に通う人は対象外。未就学児や修学旅行生などは免除する方針です。

全国では、世界遺産の嚴島神社がある広島県廿日市市の宮島で、去年10月から導入されました。1人100円を徴収する仕組みです。

竹富町ではことし1月、有識者が報告書をまとめ、前泊町長に手渡しました。税額については宮島の20倍にあたる「2000円を徴収するのが適当」と結論づけられました。

観光客からは「船賃が2000円で訪問税が2000円だとちょっと高いな」「観光にも影響が出るのではないか」などと、驚きの声が聞かれました。

【本音をぶつけあった町民と町長】

こうした中、町は各島を対象に8回にわたり住民説明会を実施。町民からは、さまざまな懸念の声が寄せられました。

「観光客が減るのではないかという不安は出てくる。額については慎重に検討してほしい。高すぎる」

「民宿をやっているが、本音のところ、1年経営してもうかっていない。2000円増えたら打撃が大きい。観光客が来なくなる。零細企業、個人事業主がいっぱいいる。懸念を払拭させてほしい」

これに対して前泊正人町長は。

「地域の文化・自然を残すために、いま何をすべきなのか。私は端的に観光の満足度を上げ、住民の生活の幸福度を上げないといけないと思っている。その2つがないと街はつくっていけない」

一方で、町の導入の狙いに賛同する意見もありました。

「金額について、もっと強気でもいいと思う。それだけの十分な魅力がある。魅力ある観光地であり続けるためにも必要なのではないか」

【町長“訪問税は必要不可欠”】

町民のさまざまな意見に配慮し、前泊町長は税額を2000円から引き下げることを決定。ただ、持続可能な町運営のためには100円や300円では効果がないとして、1000円にしました。

訪問税は、町の運営を持続可能なものにするために必要不可欠だと訴えます。

(前泊正人町長)
「この島を存続させるために生活するための基盤の整備、再構築は最低限度必要なものでもありますし、観光に対する防災の面すべてにおいてほとんど手が回っていない状態でありますので、しっかりとした財源を確保しながら、これまでの守りたいものを守るために、変えないために、我々がしっかりと変化していく、変わっていくことは必須だと思ってます」

【背景や今後の見通しは?記者が解説】

町の収入の中には「地方税」や「地方交付税」がありますが、これらは町民のために使うことが想定され、観光客へのサービスの提供は想定されていません。観光客が増えることで、本来町民だけが享受するゴミ処理や港ターミナルの利用などといったサービスの量が増えることになりますが、いまのままだと、そのサービスにかかる費用を観光客が負担することはありません。前泊町長は、こうした状況は持続可能ではないとして、自ら財源を確保する必要があるという判断に至りました。町は島々の自然や文化を守りながら、観光客が満足するサービスを提供するためには、今年度から5年間の平均で年およそ7億円は必要だとしています。

また、税収の使い道について、町は自治体が自由に使い道を決められる普通税にしたい考えです。今月3日に津波警報が発表された際に浮き彫りになったように、町内では、津波避難タワーのような高い建物がない島があります。また、避難場所が老朽化していたり、避難場所の案内表示が十分でなかったりする状況もあります。町としては、訪問税の税収で防災のためのインフラ整備も進める方針です。

そして、導入時期については、現状まだ時間がかかると言わざるをえない状況です。関係者によると、訪問税の徴収を依頼することになる船会社は税額に敏感になっていて、1000円という税額にどう反応するかは不透明だということです。船会社の話がまとまると、町は議会に条例案を提出することになり、町は6月議会での提出を目指しています。その後、総務大臣と協議して同意を得ることが必要で、通常は3〜4か月はかかるところ、竹富町の訪問税は額が大きいので、それ以上かかるという見方もあります。実施までには、こうしたハードルを越える必要があります。