辺野古沖 代執行に伴う工事着手から1週間

国が、アメリカ軍普天間基地の移設先になっている名護市辺野古沖で、代執行に伴う工事に着手してから17日で1週間です。
現場では、海に石材が投入される様子は確認できませんでした。

普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐって、沖縄防衛局は、軟弱地盤のある大浦湾側の埋め立てに向けて、護岸の造成工事に必要な海上ヤードを設けようと、埋め立て予定地の北側で今月10日、石材の投入を開始し工事に着手しました。

着工から1週間となった17日は、午前10時すぎから午後3時ごろにかけて、海に投入する石材を積んだ作業船に動きはありませんでした。

一方、17日午前中、辺野古崎周辺の海では、ダイバーによる潜水や作業員がスノーケリングをして、海の中を観察しているような様子が確認できました。

また、アメリカ軍キャンプシュワブの工事車両が出入りするゲートの前ではおよそ30人が集まり、「美ら海殺すな」、「サンゴ守ろう」などと書かれたプラカードを持って工事の中止を訴えていました。

那覇市の72歳の女性は「国は石材を投入し、私たちの気持ちをくじこうとしているのだと思います。環境が破壊されていくのを見ると胸に詰まるものがあり、怒りもありますが、おかしな点をチェックして、県と一緒に頑張っていきたいです」と話していました。

この問題について、取材している宮原啓輔記者の解説です。

Q今どのような工事が行われているのか?

A今回、工事が始まったのは、大浦湾側です。埋め立て予定地の北側に、国は護岸工事を行うための資材などを置く「海上ヤード」を設置するため、石材の投入を行っています。

Q今後、工事はどのように進められていくのか?

A「海上ヤード」の設置工事のほか、大浦湾側の埋め立て土砂の仮置き、護岸工事、サンゴの移植、そして地盤改良のためのくい打ちなどです。工事の終了時期について国は9年3か月、移設完了まではさらに3年ほどかかるとしています。移設の経費は9300億円かかると見積もっています。

Q軟弱地盤の改良工事については?

A国は、羽田空港や関西空港で用いられた施工実績の豊富な工法で、最大およそ70メートルまで地盤改良工事を行うことで、安定的に護岸の整備や埋め立てを行うことができるとしています。この工事について、地盤工学の専門の日本大学の鎌尾准教授に聞きました。

鎌尾さんは、「国内では経験したことがないような非常に深い場所で、海上で船の上から行われる。波や気象の影響もあり、非常に難しい工事だ」と述べています。その上で「起伏に富んだ地盤」をキーワードに大浦湾側の工事について言及しています。

(鎌尾さん)
「この場所は海底地盤面が非常に起伏に富んでいる。その上に護岸を造るということなので粘土はずっと沈下を続ける一方、岩なんかは変形しませんので、そうしますとどうしても片方は沈下する。片っぽは動かないと段差ができてしまう。この段差を発生させないようにするためには時間をかけて沈下を生じさせてから構造物を造る。もしくは沈下を生じさせながら構造物を造っていく」

地盤の沈下を生じさせながら造るということは、つまり現場で状況を観測しながら作業を進めることなので、より時間がかかる恐れもあるといいます。鎌尾さんは、移設完了後に、地盤の沈下が起きて滑走路が波打つことや護岸に段差が生じる懸念も示していて、工事をする前に、すべて地盤の性質を把握するための調査が必要だとも話していました。

Q日本をとりまく安全保障環境がめまぐるしく変化する中、アメリカ軍は移設工事が完了したら普天間基地を返還するのか?

A今月12日に開かれた木原防衛大臣の会見でも、記者団から「安全保障環境は大きく変わる可能性があり、アメリカ側から普天間基地を使い続けたいという話があっても、NOと言える強い意志をお持ちだと捉えていいか」という質問が出ていました。これに対し、大臣は次のように答えていました。

(木原防衛大臣)
「仮定の質問に対して、一つ一つ私が答えることは適当でないと思いますが、いずれにしましても、辺野古への移設完了後、普天間飛行場が返還されないという状況というのは、全く想定してないということは重ねて申し上げます」

国は、2006年5月に日米両政府で普天間基地の移設先を辺野古とすることに合意し、さらに、移設を進めるにあたり、さまざまなレベルで日米間の合意があると説明しています。この点について、安全保障が専門の沖縄国際大学の野添准教授にアメリカ側の見方を聞きました。

(野添さん)
「普天間基地の辺野古への移設というのは、日米関係における政治マターであって、軍事マターというよりかは政治マターなので、政治的決められた以上、そして日本政府がこれを必ず完成させるんだと完成可能なんだと言って工事を進めている以上、それを見守り続けるしかないというのがアメリカ側の立場だろう」

野添さんはアメリカ側から見た時、2つの課題があると指摘しています。1点目は、移設先の機能面の課題です。中国の軍事力に対抗するため海兵隊は小規模な部隊を離島に分散させる戦略を進めています。その観点からみると、辺野古では大き過ぎる上、後方支援の拠点として使用するには滑走路が短すぎる弱点を抱えているとしています。2点目は、新たな施設がアメリカ側の運用条件にあうのかという点です。今後、建設が進む中、軟弱地盤の影響が表に出てくれば、アメリカ国内で問題となり、普天間基地の返還が進まない可能性もあると指摘しています。

Q1週間前に行われた石材の投入はで移設問題は新たなステージに入ったとも言えるが、沖縄の人たちの受け止めは?

A国の対応へ憤りや不満を感じている人は少なくないと思います。着工後には辺野古で抗議集会が開かれたり、カヌーや船に乗って海上で抗議活動も行なわれています。ただ先週金曜日に開かれた集会の参加者は主催者発表でおよそ900人、集まりにくい場所ですが、以前に比べると少なくなっていると思います。

アメリカ軍関係者による事件への怒りや悲しみ、過重な基地負担や移設問題をめぐる政府の対応への反発。こうした感情が県民の間で高まり、重大な局面を迎えた時、沖縄では多く人々が一堂に会し県外や国外へ民意を示してきました。抗議集会は、非常に重要な役割を果たしてきましたが、時の経過とともに参加者は減少傾向にあります。一方、これまで県知事選挙や県民投票で、県民の移設反対の意思ははっきりと示されています。
参加者は減っているが民意はしっかり示される、このねじれのような状況について、沖縄の戦後史が専門の明治学院大学の古波藏 研究員に聞きました。

古波藏さんはその要因について、「沖縄社会の中で断絶がどんどん進み、特に若い世代では、何をやっても無駄だという無力感が植え付けられていることが影響しているのではないか」と述べています。その背景には、沖縄が戦後歩んできた歴史が関係していると話しています。

(古波藏さん)
「そこに基地を置く置かないっていうことの賛否だけではなくって沖縄の人がこれだけ怒っているのは、自分たちで自分たちのことを決められないっていうことの象徴だからですよね。上の世代はこれまで闘ってきた歴史もあるし、『これしきのことでは』っていうことで奮起できるかもしれないが、若い世代の間にはいくら『ノー』と言っても変えられない問題になってしまっていて、もうそれについて考えるのもおっくうだし、話題にすれば場の空気はしらけるしっていうふうな問題になってしまっていてもう諦め感というのが蔓延している。やっぱり隣の人と一緒になって何かをやれるっていう感触がないんだと思うんですね」

世代間の差というのは、私も取材を通じて感じています。基地問題や移設問題に対し、上の世代は熱く、若い世代は距離を置いて見ているように思います。古波藏さんは、「若い世代の諦め感」、これをいかに減らしていくことができるかがポイントだと指摘していました。そのために、家族や友人と移設問題についても議論できるような環境、人と人とのつながりを、改めて作っていくことが大切だと話していました。