沖縄とガザ 「沖縄戦の図」が伝える命の大切さ

【ガザと沖縄】
沖縄県民の4人に1人が命を落とした沖縄戦から78年。アメリカ統治下をへて「平和主義」を掲げる日本に 復帰して半世紀がたちました。一方、世界に目を向けると争いが絶えません。世界で注目を集めている紛争地の1つ、パレスチナのガザ地区。きょうは、ガザで何が起きているのか、沖縄に暮らす私たちはこの問題と、どう向き合えばいいのか考えます。

(原キャスター)
NHKロサンゼルス支局の佐伯敏・支局長とつないでいます。佐伯さんはかつてエルサレム支局長として2014年のイスラエル軍のガザ地区侵攻を現地で取材し、この夏までは沖縄局に勤務。先日まで再び現地に足を運び取材をしていました。佐伯さん、まず、現地の最新情勢を教えてください。

(佐伯 ロサンゼルス支局長)
一連の戦闘が始まってから50日あまり、すでに大勢の市民が犠牲になっています。双方の死者数は、イスラエルがおよそ1200人。そのほとんどがハマスの初日の奇襲の際に殺害された人たちです。一方、ガザ地区では現地の保健当局の発表でおよそ1万5000人に上っています。嘉手納町や本部町の人口を上回る数字です。一部の専門家は、今回のイスラエルの攻撃はベトナム戦争や第二次世界大戦以来の激しさだと指摘しています。実際、市街地への空爆や艦砲射撃、それに地上戦が行われ、一家全滅の事例もいくつも報告されています。ここ1週間はイスラエルとハマスの双方が戦闘をいったん止めて人質の解放と引き換えに、イスラエルが刑務所からパレスチナ人を釈放するという動きが続けられてきました。ただ、イスラエルはハマスが壊滅するまで攻撃を続けるという方針を変えていません。なので、戦闘が終わる道筋は立っていないんです。

(仲本キャスター)
先行きが見えない中、一般の人が大勢犠牲になる姿はことばにならない恐ろしさです。現場で取材をしてどんなことを感じましたか?

(佐伯 ロサンゼルス支局長)
2週間ほど、エルサレムに滞在して隣町のパレスチナのベツレヘムでも取材しましたがイスラエル・パレスチナどちらの社会にも、恐怖や不安が広がっていると実感しました。イスラエルにとっては、ハマスに自国の領土に攻め込まれたのがこれが事実上、初めてのことなんです。これだけ大勢のイスラエル人が1日で殺害されたこともナチスによるホロコースト以来と言われています。その恐怖から、イスラエルではいま、銃を買おうと言う人が急増していて、一部の政治家も、市民に武装を呼びかけています。そんな状況にパレスチナ人もいっそうの恐怖を感じています。憎悪や報復の感情が渦巻くなかで、いつ、なにがきっかけで、ユダヤ人に銃を発砲されるか、わからないと感じているんです。実際、パレスチナ人がユダヤ人に暴力をふるわれたり、いやがらせを受けるケースは急増しています。恐怖が人を武装に向かわせ、それが新たな緊張を生むという、まさに悪循環が起きていると感じました。

(原キャスター)
激しい地上戦を体験した沖縄の人たちにとって、連日報道されるガザ地区の様子はひとごとではないように感じます現地を取材した佐伯さんは、私を含めて、沖縄の人たちはこうした状況にどのように向き合えばいいと考えますか?

(佐伯 ロサンゼルス支局長)
まだ教訓めいたことをいうのは適切ではありませんが、「戦争は始まってしまうと止めるのが難しい」ということ、だからこそ戦争は回避しなければいけないということにつきると思います。そして、イスラエルの軍事作戦が「自衛のため」に行われていることについて、私たちは立ち止まって考えるべきだと思います。国民の恐怖心と「自衛のため」ということばが、市民の犠牲の正当化につながっています。そうした事態を遠い国のこととしないで考えることは大切だと思います。いまは「どちらの言い分が正しい」と言い合いをするのではなく、まず戦闘を止めなければ市民の犠牲は増え続ける一方です。国際社会の外交努力で、1日でも早く流血の事態を止めることが望まれます。

(原キャスター)
佐伯さん、ありがとうございました。ここまで、佐伯ロサンゼルス支局長とお伝えしました。では、ここから沖縄とガザにさらに焦点を当てて考えていきたいと思います。

(仲本キャスター)
訪ねたのは本島中部にある美術館です。展示されている沖縄戦をテーマに描かれた作品が訴えかけているのは命の大切さです。

アメリカ軍普天間基地に隣接する佐喜眞美術館です。館長の佐喜眞道夫さん(77歳)です。29年前に開館して以来、沖縄戦をテーマにした作品を展示し、平和学習で県外の修学旅行生も訪れています。

(佐喜眞道夫さん)
「今ガザで戦争中ですけども私なんかニュースを見るたびに胸が痛い」

画家の丸木位里、俊夫妻が1980年代に描いた沖縄戦です。体験者の証言をもとにつくられた作品は14点にのぼります。

【沖縄戦ーきゃん岬】
(佐喜眞道夫さん)
「これはね、きゃん岬という最南端の様子ですね。色んな物語が書き込んであります。これは少年兵達が手りゅう弾を抜いてバラバラになってしまった。体がね。ひめゆりでしょうね、これから抜くんですよ手りゅう弾を、抜く瞬間ですね」

糸満市にある喜屋武岬は沖縄戦の最後の激戦地です。人々が逃げ場をなくし、追い詰められていきました。

(佐喜眞道夫さん)
「ガザは壁に囲まれてそこに集中的に艦砲射撃が。これも海に囲まれてどこにも逃げられる場所がないところに集中的に艦砲射撃が行われている」

【沖縄戦ーガマ】
(佐喜眞道夫さん)
「南部のガマに追い詰められて、そして、戦争が終わるのを待っていた人たちの表情ですよね。そういう点で、今のガザと非常に重なりますよね、そこに追い詰められていって、その絶望的な状況の中でみんな生きようとしている姿ですよね。おばあちゃんが次の瞬間消えてしまうような感じですよね。この赤ちゃんは親とはぐれたんでしょうね。要するに体力のない順から戦場では死んでいくわけですよ、赤ちゃんを抱いて逃げているお母さんの立場、こういう人たちの立場から戦争を考える必要が1番大事なんだと。命の面から戦争を考えるという意味でしょうね」

【沖縄戦の図】
立場の弱い子どもやお年寄りが描かれています。佐喜眞さんはこの絵が伝える命の大切さを沖縄から発信し続けていくことが必要だと考えています。

(佐喜眞道夫さん)
「命なんだと命どう宝なんだと。女性と子どもの視点から言っている訳なんですね。その私たちが獲得して78年も言い続けてきた、語り継いできた命どう宝という物差しを世界に通じる普遍的なことばにしたのがこの絵ですよ。沖縄からそういうことを発信するのが非常に大事なんじゃないでしょうかね」

【人道危機さらに深まるか】
イスラエル軍はパレスチナのガザ地区でのイスラム組織ハマスへの軍事作戦を再開したという情報がきょう(1日)午後入ってきました。先月24日からのガザ地区での戦闘の休止は7日間で終わり、戦闘再開による人道危機のさらなる深まりが懸念されます。VTRでご紹介した宜野湾市の佐喜真美術館では、「沖縄戦の図・全14部」を来年(2024年)1月29日まで、展示しているということです。