命奪われた遺族の支援 池袋暴走事故から4年

【命奪われた遺族の支援は】
那覇市出身の松永真菜さん、長女の莉子ちゃんです。4年前の2019年4月、東京・池袋で自転車に乗っていた2人は猛スピードの乗用車にはねられ、亡くなりました。娘と孫を失った66歳の男性が講演を行い、当時の心境などを語りました。

(上原義教さん)
「時間があっという間にすぎたのか、時間が止まっているのかよく分からない状況ではあるんですが、私の経験したことは辛い経験ではあるんですけど.少しお話させていただければと思います」

浦添市に暮らす上原義教さん66歳です。11月28日、事件事故の被害者支援を担当する自治体の職員に向けて初めて講演しました。

4年前の2019年4月、東京・池袋で乗用車が暴走し、歩行者などが次々にはねられました。自転車に乗っていた娘・真菜さんと孫の莉子ちゃんは猛スピードの乗用車にはねられ亡くなりました。

講演のなかで上原さんは、真菜さんの夫・拓也さんからかかってきた電話について触れました。

(上原義教さん)
「お昼、松永拓也から連絡があって。もう泣きそうな声で『お父さん、莉子と真菜が事故で病院に行ったんだって』それから何時間後かな。再度電話をいただいて今度は泣きじゃくって『お父さんごめんなさい。真菜と莉子が』って声が詰まっていて、何とも言えない、嘘のような夢の中にいるのか何なのか、現実にいるのか分からないような状況でした。ごめんね、変わってあげられなくて、謝ることしかできなかった」

その年の秋には真菜さんたち家族は沖縄に移住し上原さんと一緒に暮らすはずでした。事故のあと、眠れない日々が続き、精神的に追い詰められていったという上原さん。乗用車のドライバーの裁判に出るためひんぱんに東京を訪れることになり、経済的な負担も大きくなっていきました。

(上原義教さん)
「私が前に別の家に住んでいたんですけど、もう費用も大変だし、この家を手放した方がいいんじゃないとかね.色々な費用に充てるために。私には売る家があったからよかったんですけど」

当時、車関係の仕事をしていましたが、続けられなくなったといいます。

(上原義教さん)
「最初は部署を変更して少しだけ頑張ったんですけど、やっぱり接客はできないし、仕事をつづけていくことができなくなって退職したんです。それでお金はどこからも入ってこないし、そういう事故以外にも苦しい、いろいろなことを考えなくてはいけない苦しみがあって」

そんな中、支えとなったのは被害者支援を行う団体のメンバーなどの存在だったという上原さん。家族の命を突然、奪われた人を見かけたら手を差し伸べてほしいと呼びかけました。

(上原義教さん)
「自分からなかなかいえないんだけども、寄り添ってくれる人がいるとお話しすることができるんですよ。悲しみ、苦しみ、辛さ。そのなかにあっても、こう励ましてくれるひとがいる。寄り添ってくれる人がいる。そうすると少しずつ元気に。私もそのように元気になれる」

(那覇市の担当者)
「今までに報道で聞いていて、見知っていたことでは全く伝わらなかった迫るものを伝えていただいた。経済的にも大変な状況に陥るんだろうということが改めて分かった」

(豊見城市の担当者)
「市町村としてはやるべきことはあったよな、あるなっていうことはずっと考えながらではあったんですけど。寄り添えるような部分の人材育成であったりとか私も持ち帰って職員にどうするよ私たちって強く思いました」

(上原義教さん)
「月日が経とうが何しようが心の傷っていうのはなかなか癒えるものではないからね。それを少しずつでも、私みたいなひとでも、ちゃんと生きていけるような形になっていくから、そういう世界、そういうことになっていけばと思います。自分も人に言えないような苦しみとか悲しみとかたくさん経験してきたんだれども、そのなかにあって苦しい思いをした人たちにちょっとでもね、自分の経験を伝えることによってそれがプラスになればよいのかなと思っている。これからちょっとずつよくなっていけば」

(原キャスター)
ここからは上原さんを2年間、取材している上地記者です。被害にあわれた当事者は、「大切な人を失った悲しみ」という部分に焦点が当てられがちですが、それ以外にも、さまざまな苦しみ、課題にも直面されているんですね。

(上地依理子記者)
上原さんと初めてお会いしたのは2年前の2021年9月です。取材を始めてお聞きした、「事故は一瞬だけれども、苦しみは一生続く」ということばがとても印象に残っています。ただ、上原さんは深い苦しみや悲しみを抱えながらも前に進もうとされています。取材を始めた時、“そっとしてほしい”という気持ちが強かったように感じますが講演の前に、上原さんにお会いした時、「苦しい経験をたくさんしてきたけれどその中で自分も成長してきたと思う」と話していました。そして、“誰にも同じ思いをしてほしくない”と今回の講演にのぞんだそうです。

(原キャスター)
上原さんが講演で“寄り添ってくれる人の存在”について話していましたね。そういった人たちの存在は想像以上に大きいのでしょうか?

(上地依理子)
はい。上原さんから寄り添ってくれる人の存在の大きさについて私も何度も聞いています。ただ、犯罪や事故に巻き込まれた人やその家族にどのように接すればいいのか、ちゅうちょしてしまう方もいらっしゃるかと思います。どう向き合えばいいのか、被害者支援の専門家に話を聞きました。

(全国被害者支援ネットワーク専務理事・奥山栄一さん)
「被害からの回復には個人差があります。被害後すぐに被害の影響の出る方もいればですね、被害を受けてから10年20年たってから、影響が出る方もいます。被害者の方がですね。また話したくなったらですね。ただその話を聞くと、気持ちに寄り添うことが大切だとは思います。『いつか自分たちもそういう被害にあうこともある』ということを痛感に思うことですので、被害者支援について理解を深めていただけたらと思う」

(原キャスター)
「寄り添う」ということ。それは「もし自分だったら」と、相手の立場を想像したり思いに共感したりと、時間をかけて共に歩んでいくことかもしれませんね。

(上地依理子)
県内では犯罪や事故に巻き込まれた当事者やその家族の支援は公益社団法人の「ゆいセンター」が行っています。「ゆいセンター」が行う法律相談やカウンセリングは会費や寄付金でまかなっていて協力を呼びかけています。