やんばるの森で何が 肺炎のケナガネズミ 相次いで確認

沖縄本島北部や奄美大島、徳之島だけに生息する国の天然記念物ケナガネズミ。国内最大のネズミで、絶滅危惧種にもなっていますが、実はいま、肺炎にかかって命の危険にさらされているケースが相次いで確認されています。やんばるの森で今何が起きているのでしょうか。

(NHK沖縄放送局 内原早紀子キャスター・金城好仁記者)


【専門家が注目 ケナガネズミ】

希少な動物や植物の宝庫・やんばるの森で、いま専門家たちの注目を集めているのがケナガネズミです。

個体数は天敵のマングース対策などで回復傾向にありますが、実はいま、肺炎にかかって命の危険にさらされているケースが相次いで確認されています。

NPO法人どうぶつたちの病院沖縄の金城道男副理事長は「交通事故もですが、それとはまた別の脅威といいますか、目に見えないところで病原体や寄生虫が入り込んで命を落としてしまうということも考えられます」と話します。

【原因は「広東住血線虫」】

NPO法人どうぶつたちの病院沖縄の理事長で獣医師の長嶺隆さんにも話を聞きました。

長年、やんばるで希少な生き物の保護に取り組んでいる長嶺さん。12年前、肺炎にかかって死んだ個体を初めて発見しました。解剖すると、体内から「広東住血線虫(かんとんじゅうけつせんちゅう)」という寄生虫が。これまでに広東住血線虫に寄生された例は6件確認されているといいます。

(長嶺隆さん)
「広東住血線虫というのは、やんばるの動物にいるとは思っていませんでしたし、やんばるの希少なネズミにまで入り込んでいるとは思っていなかったので、肺に大量の広東住血線虫の寄生が確認されまして非常に驚きました」

【アフリカマイマイが広げたか】

広東住血線虫は、外来種のアフリカマイマイなどのカタツムリ類や、ナメクジなどの体内に寄生していることが多く、ケナガネズミがこれらを食べることで肺炎に感染します。アフリカマイマイが90年前に持ち込まれたことで沖縄でも広がったとみられています。

先月、那覇市で開かれたアフリカマイマイについての講演会では、その歴史も紹介されました。

はじめは投資目的で養殖され、沖縄戦の際には食料になったこと。いまは農作物に被害をもたらしていることなどです。

そして、生息域はやんばるの森にまで拡大し、ケナガネズミの間に寄生虫を広げているとみられるのです。

ことし4月には交通事故に巻き込まれ治療を受けた個体から検出。さらに今月も検出されています。今月の個体は、国頭村の道路の真ん中で発見され、呼吸があらくなっているのが分かる状態でした。病院で調べた結果、肺炎の疑いがありました。

長嶺さんは、肺の部分が細かく白くなったレントゲンの画像を示しながら「息が苦しくてもう歩けない状態だと思います」と話していました。

【駆除すればすむ問題ではない】

やんばるの森に広がる、新たな外来種のリスク。長嶺さんは、寄生虫が原因だからこそ対策が難しいと指摘します。

(長嶺隆さん)
「体内に入っているときに外から見ることができませんので、やんばるの山の中を歩いていて広東住血線虫だというのは分からないんです。ケナガネズミが倒れて初めてわれわれは分かるので非常に検出しにくいですよね」

一方で長嶺さんは、駆除すればすむ問題ではないと考えています。

(長嶺隆さん)
「やんばるにいるカタツムリもやんばるの生態系を支える非常に重要な一員で、かれらはやんばるの中にいてもらわないと困る種類なんです。我々人間の営みは、意図せず目に見えない外来種を持ち込んでしまい、世界自然遺産に暮らす動物たちを未来に引き継げなくするおそれがあります。もう一度、持ち込んでしまうものに対する対策を綿密に立てていかなければなりません」