やんばる「ちょっと登ってみる?」に待った!油断すると危険

沖縄の観光といえば海!ですが最近、山の人気も高まっています。本土の2000〜3000メートル級の山に比べると高くなく、気軽に登ることができるイメージがある沖縄の山。そこに潜む思わぬ危険を取材しました。

(NHK沖縄放送局記者 高田和加子・金城好仁)


【沖縄の秋はビーチよりも山】

希少な動物や植物の宝庫で、世界自然遺産に登録されたやんばるの森。日帰りで大自然を楽しめる手軽さもあいまって人気を集めています。

登山客に話を聞くと「10月から4月までは山が魅力です。国頭の山は全部登りましたよ」「楽しいです。鳥の鳴き声とかもきれいだし、癒やされます」などと、その魅力を語ってくれました。

森の入り口では、今月、登山グループによる救助方法の講習会も行われていました。このグループでは、万が一に備えて、定期的に講習会を開いています。

主催した県山岳・スポーツクライミング連盟の田場典淳理事長は「毎年講習を受けても1年おくと忘れるもので、そのためにどうしてもトレーニングは必要です」と話していました。

【毎年続く遭難事案 なぜ?】

しかし、やんばるの森では、毎年遭難するケースがあとをたちません。管轄する地元の国頭地区消防本部によりますと、救助のため山へ出動した事案は、平成29年8月以降で33件発生。大半は、滑落などではなく、道に迷ったケースです。山には、かつての生活道が多く通る一方、標識は決して多くないと話します。

(宮城聡治署長)
「本土の山だと、山が整備されていて結構視界がいいのですが、沖縄の場合はちょっと入るともう見えなくなります。ジャングルになっていて、捜索もかなり困難になります」

与那覇岳では道に迷う事案が、ことしすでに2件発生。このうち1件は、日帰りの予定で入った70代の男性が遭難し、翌日救助されたものです。迷った原因は森の中に何本も通る細い道でした。

(宮城聡治署長)
「帰り道は実際には左にまがらなければならないのですが、まっすぐの道を帰り道と思って迷ったという状況です」

救助後「まっすぐ進んだ道のほうがひらけて見えた」と話した男性。気づかないうちに、山奥につながる道へ進んでしまったのです。

また、いったん遭難すると長期化するリスクもあります。視界が10分の1程度に落ちる夜間は、2次災害を防ぐため捜索を行わないことがほとんどだからです。

11年前には、3日間捜索が続いたこともありました。仲間を追いかけていた男性が、間違った道に入ってしまったのです。日帰りの装備のまま2晩を過ごし、衰弱した状態で救助されました。

(宮城聡治署長)
「沖縄の山でも夜中は寒くなるし、かなり冷え込みもある。救助されるかもわからないということで、ふだんの精神状態ではないですよね。まさか自分が、という感じが多いと思います」

【地元ガイドに聞いてみた】

では、遭難しないために、どういうところに気をつければよいのか。国頭村出身で地元でガイドを10年つとめる平良太さんと一緒に与那覇岳を登りました。

まずは、脇にある細い道へそれないこと。過去に遭難が起きた場所だとしてロープが掛けられているところは特に注意が必要です。

(平良太さん)
「たとえば、この昔使っていた道です。いま使ってないので、木が繁茂していますが、道自体は歩ける。ここに入って途中でわからなくなったという遭難の実績があります。道を間違える最大の理由は、脇道に迷い込むことです」

次に、地図やコンパスだけでなく現在地の情報を衛星などで把握できるアプリも欠かせないと平良さんは話します。

(平良太さん)
「軌跡が残ります。通信の電波がなくても使えるソフト。これがないと怖いです。われわれとしても初めて入るときはこういうのを起動させてチェックしながら歩きます」

そして何よりも、山を甘く見ないこと。最近はドライブがてらに山を登る人も多く、中には半袖やサンダルなど、不十分な装備の人も少なくないといいます。平良さんは、やんばるの森のことを知って、備えを整えた上で楽しんでもらいたいと呼びかけています。

(平良太さん)
「山に入るときにいろいろ事前に調べ、装備品や服装をちゃんとして、入るときも早い時間に、暗くなる前に出てきて、そのまま楽しい思い出を持って帰っていただきたいと思います」

【登山楽しむために備えを】

地元の国頭村も、増える登山客に対応できるようガイドを養成する事業も行っているということです。

最後に、やんばるの山へ登る際の注意点3点をおさらいします。

1.事前調査
自分の技術や体力に応じた山やコースか調べて無理のない日程を組みましょう。直前であっても不安を感じたら中止することが大事です。

2.救命講習
万が一に備えて、知識を身につけておきましょう。

3.1人ではなく仲間と登る
経験が豊富な人をリーダーに選んだり、ガイドを頼んだりするほか、家族や知人に行き先と連絡先を伝えておきましょう。