沖縄科学技術大学院大学しまくとぅばで論文 見えてきたものは

9月18日は語呂合わせで「しまくとぅばの日」でした。

“また、蟻こーぬ跳じゅる事ぬ、筋肉、長く成ちゃい、いんちゃく成ちゃいしが動ちゅら、また、押し戻しぬメカニズムん関わてぃが居ら、分かてー居らん”

しまくとぅばとしては、あまり聞き慣れないことばがあるかもしれませんが、実は「アリのジャンプ力」に関する論文なんです。OIST=沖縄科学技術大学院大学の研究グループが論文の要旨をしまくとぅばで発表しました。携わった研究者や職員たちから、この取り組みから見えてきたものについて話を聞きました。

(NHK沖縄放送局記者 上地依理子)


【とびはねることはアリにとって珍しい特殊化】

“跳じゆーする蟻こーや、いきらさん”

とびはねることはアリにとっては珍しい特殊化です。

今回しまくとぅばで論文を発表したのは、OIST=沖縄科学技術大学院大学のエヴァン・エコノモ教授のグループです。普段から生物の多様性について研究していて、アリの社会性や多様な進化について調べています。

今回はとびはねるようになったアリに着目し、どのようなメカニズムでとびはねているのかを分析しました。

(グループの学生)
「実際ジャンプするアリの体にどのような筋肉が入っていてジャンプするときに、どの筋肉がどういう役割を持っているのかということを調べました」

【論文をしまくとぅばで】

学術論文は通常、英語で執筆します。しかし今回は論文の要旨を他の言語で発表できる科学誌に記載することになり、しまくとぅばでも発表することになったのです。それを発案したのが、この研究グループを率いるエコノモ教授でした。

(エヴァン・エコノモ教授)
「OISTはいろいろな国から人が来ていて国際的な環境がありますが、OISTは沖縄にあります。科学と融合して沖縄の文化を知ってもらいたいと思いました。世界の人たちにうちなーぐちの論文を見てもらえるので、世界に対してうちなーぐちがあるということを知らせるいい機会になると考えました」

エコノモ教授が”しまくとぅばで論文を”というアイデアを発案した背景にあったのは、OISTでしまくとぅばの勉強会などを行っている県出身の松田美怜さんと知花千亜希さんの存在でした。

【携わったのは県出身の2人】

日頃から2人の活動をみて、しまくとぅばに魅力を感じたエコノモ教授は、2人に協力を呼びかけました。

仕事でもしまくとぅばで会話をするほどの実力の持つ2人ですが、作業は難航しました。

(知花千亜希さん)
「アリの筋肉の話が出てきたと思うんですけど、筋肉を辞書で調べると食べられるような肉という意味を持つことばしかでてきませんでした」

意味が合うことばをしまくとぅばの辞書で探したりしましたが、専門用語の多くがしまくとぅばに存在しませんでした。

その中でもしまくとぅばをよく知る両親や言語学者からアドバイスをもらって完成させました。

作業をする中で、ことばは使われることで進化すると実感したという2人。よりいっそう普及活動に努めたいと考えています。

(知花千亜希さん)
「私たちの世代や若い世代が、しまくとぅばを使っていくことで、今を生きる人たちの考え方や価値観を反映したことばを今の世代からもつないでいけるのではないかと感じました。しまくとぅばの可能性を感じました」

(松田美怜さん)
「このことばがなくなるとどうなるんだろうという危機感はもともとあったのですが、ことばがなくなるとこの島の味がなくなるではないかと気づきもありました。新しいしまくとぅばの話者を増やしてどんどんこういった小さな活動を広げて行きたいと感じています」