国有化からまもなく11年 尖閣諸島巡る現状報告

沖縄県の尖閣諸島が国有化されてから、9月で11年となります。国有化以降、周辺の海域では中国当局の船による航行が常態化し、領海侵入も繰り返されています。現場でいったい何が起きているのか、河合遼記者が取材しました。

【海警局の領海侵入は増加】
日本政府が11年前の2012年9月11日に沖縄県の尖閣諸島を国有化して以降、日本の領海のすぐ外側にある接続水域の航行が常態化していて去年(令和4年)1年間に中国海警局の船が接続水域を航行した日数は過去最多の336日にのぼっています。また、去年1年間に海警局の船が領海に侵入したのは28件とここ数年とほぼ同じペースで推移しています。ことしも接続水域の航行は常態化していますが、領海侵入は8月2日までに20件と去年を上回るペースで推移しています。ことし3月30日から4月2日にかけては、日本漁船3隻の動きに合わせるように海警局の船4隻が領海侵入し、過去最長の80時間36分にわたって領海内を航行し続けました。

【尖閣諸島とは】。
尖閣諸島は、沖縄本島の西方、およそ410キロ、海上保安庁の警備の最前線の石垣島からおよそ170キロの位置にあり魚釣島、北小島、南小島、久場島、大正島などからなる島々の総称です。日本政府は歴史的にも国際法上も尖閣諸島は日本固有の領土であり、領有権の問題は存在しないとしています。日本政府は、尖閣諸島について、現地調査でほかの国の支配が及んでいる痕跡がないことを確認したうえで1895年(明治28年)に閣議決定を行い、日本の領土に編入しました。外務省によりますと、1969年に国連機関の調査報告書で周辺海域に石油が埋蔵されている可能性があると指摘されると、中国政府は1971年、初めて領有権を主張します。さらに1992年には「領海法」を制定し、尖閣諸島は中国の領土だと明記しました。その後、2004年(平成16年)、中国人活動家7人が、魚釣島に不法に上陸する事件が発生。2010年(平成22年)には、中国の漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が発生しました。日本政府は、11年前の2012年9月11日尖閣諸島の安定的な維持・管理を図るためとして、海上保安庁が魚釣島、北小島、南小島の3島を取得・保有し、国有化しました。

【石垣は全国最大の基地に】
海上保安庁は、尖閣諸島の専従の警備体制を整えるため、7年前(2016年)までに新造した1000トン型の巡視船10隻を最前線の拠点である石垣海上保安部に配備しました。さらに那覇海上保安部のヘリコプター搭載型の大型巡視船2隻のあわせて12隻体制で現在、尖閣諸島の警備に当たっています。専従の巡視船以外の船も尖閣諸島の警備には加わっていて石垣海上保安部には、おととし(R3)11月には最大級のヘリコプター搭載型の巡視船が配備されました。このほか、巡視船3隻、巡視艇など3隻を含めあわせて17隻が所属する石垣海上保安部は、全国の海上保安部の中でも最大の基地となっています。7月31日、石垣港には合わせて9隻の巡視船が停泊していて、最大級のヘリコプター搭載型の巡視船「あさづき」や巡視船「よなくに」が出港する様子が確認できました。このほか、全国各地から応援に来ているうちの1隻とみられる長崎海上保安部の巡視船「ほうおう」が停泊していました。

【海警が漁船退去と主張】
7月13日、尖閣諸島の大正島の沖合で、日本の漁船1隻の動きにあわせるように中国海警局の船2隻が一時、日本の領海に侵入したことについて、中国海警局はホームページで「法律に基づき、不法侵入した日本の漁船を領海から退去させた。魚釣島とそれに付属する島々は中国固有の領土であり、中国海警局の船舶は法律に基づき、中国の管轄海域で海洋権益の保護と法執行活動を行っている」と一方的な主張をしました。海上保安庁関係者によりますと、中国海警局が日本の領海内で操業していた日本漁船に対して、このような主張をするのは初めてとみられるということです。中国海警局は▽ことし1月に(令和5年)石垣市が尖閣諸島周辺の日本の領海内で海洋調査を行った際や▽ことし3月に日本のヨットが領海内を航行した際にも似た内容の主張をホームページに載せています。また、尖閣諸島周辺を航行する中国海警局の船をめぐっては▽去年11月以降、従来より大型の76ミリ砲を搭載しているとみられる船が確認されるようになったほか、▽ことし3月以降、船の位置情報などを電波で発信し続けていることが明らかになっています。

【漁業者“PRにすぎない”】
尖閣諸島沖で漁を行っている金城和司さん(51)は3年前(2020年)に尖閣諸島沖で操業中、中国当局の船が金城さんの船のすぐ近くまで迫ってきたことがあったものの、それ以降は同じような事態は起きていないとしています。7月13日、金城さんが大正島の沖合で操業した際には海警局の船が領海侵入するとともに、ホームページを通じて「法律に基づき、不法侵入した日本の漁船を領海から退去させた」などと主張しました。これについて金城さんは「中国海警局に漁を妨害された事実はない。自由に漁のポイントを行き来できた」と述べ、海警局側のPRにすぎないと感じています。この時の漁ではハマダイやキンメダイを300キロ以上を水揚げしていて金城さんは「親の代からずっと同じように尖閣諸島周辺は生活の場で、これからも漁をやっていく」と話していました。

【専門家“外交の場で”】
海洋安全保障に詳しい桜美林大学の佐藤考一教授は、今回の海警局のホームページを使った主張について、「漁業者がちゃんと漁をしたということであれば中国側は大げさに言っているだけで気にする必要はない。この先、何をやって来るかということは考えなければいけないが、今、特に大きな変化があるわけではない。最近は向こうも挑発的なことはやってない」と話していました。その上で、海上保安庁が海警局に対応していることについて「軍事組織でない海上保安庁を出すことで軍事的衝突にしないような意味もある。自衛隊も、それからバックにはアメリカ軍もいるし、我々はそんなに弱い組織でもないですし、しっかり対応するよということを常に中国側に示していくことが重要だ」と指摘しました。そして、「いま中国から引くことはなく日本としては中国に負けないように引き分けに持っていくことが必要で、日本やアメリカASEAN諸国といった中国といろいろと衝突してる国との連携を深め、『中国に軍拡をやめて経済大国になることを目指すべきだ』ということを外交の場で言うべきだ」と述べました。

【海保関係者“サラミ戦術か”】
中国海警局が従来より大型の76ミリ砲を搭載した船を尖閣諸島周辺で航行させたり、ホームページを通じてみずからの主張を発信したりしていることなどについて、複数の海上保安庁の関係者はサラミを少しずつスライスするように小さな既成事実を積み重ね時間の経過とともに大きな戦略的な変更をもたらす「サラミ戦術」の一環だと指摘しています。NHKの取材に対し、複数の関係者は「海警局がホームページで主張を繰り返しているが、現場で何かが大きく変わったということはなく、サラミ戦術の一環ではないか」とか「尖閣警備は隙を見せないことが大事だ。急激なエスカレートはしていないが、じわじわと来ているということだと思う。まさにサラミ戦術で油断してはいけない」などと話していました。

【海保は警備強化の方針】
海上保安庁は巡視船の増強や国際連携などを通じて警備体制を強化していく方針で、今年度中に大型の巡視船3隻が配備される予定です。