「国民保護」 具体的なシミュレーション進まず
有事の際に住民を避難させるための「国民保護」の取り組みについて、NHKは専門家と共同で沖縄県内のすべての市町村に調査を行いました。
その結果、交通機関の輸送能力を把握していると答えたのは1割未満にとどまり、具体的なシミュレーションが進んでいない実態が明らかになりました。
アンケート調査はNHKと国士舘大学の中林啓修准教授が共同で実施し、県内41の市町村のうち39の自治体から回答を得ました。
この中で、有事の際の住民の避難をめぐり、避難の対象となる人数について「把握している」と答えたのは11の自治体で28%、「必要に応じて把握できる」は17で44%に上りました。
一方、交通機関が一日に運ぶことができる人数を「把握している」と答えたのは3つの自治体で8%、「必要に応じて把握できる」は9つで23%にとどまり、具体的なシミュレーションが進んでいない実態が明らかになりました。
また、現場での課題を複数回答で質問したところ「平素の人員や時間の不足」が最も多く32の自治体で82%、次いで「基礎知識がない」と「先進事例や相談先がない」が22で56%となりました。
国士舘大学防災・救急救助総合研究所の中林啓修准教授は「武力攻撃が起きた場合の避難は市町村の中だけでは完結せず県や国を含めて考えていかなければならない」と話していました。
アンケート調査の詳しい結果は次のとおりです。
【計画などの作成状況】
「国民保護法」で市町村は「避難実施要領のパターン」と呼ばれる具体的な避難パターンを作成しておくよう努めるとされています。
このパターンについて、▽「作成済み」と答えた自治体は8▽「着手済み」は3▽「作成予定あり」は19となり、77%の自治体が何らかの形で作成に取り組んでいる一方、▽21%にあたる8つの自治体では作成のめどがたっていないことが分かりました。
また、国民保護に関する庁内のマニュアルについて
▽「作成済み」と答えた自治体は4、▽「着手済み」は12、▽「作成予定なし」は23で、回答した自治体のうち41%が市町村独自のマニュアル作りに取り組んでいることも分かりました。
国民保護に応用可能な防災計画やマニュアルについて▽「作成済み」と答えたのは13の自治体▽「着手済み」は1▽「作成予定あり」は8▽「作成予定なし」は17でした。
【他団体との調整】
避難誘導や安否情報の収集など地元の交通機関や民間団体などと結んでいる国民保護に関する協定があるか聞いたところ、▽「ある」と回答したのは1つの自治体▽「防災協定を国民保護に準用する」と回答したのは24でした。
国民保護の取り組みに関し、問い合わせや調整をしたことのある関係機関について尋ねたところ、
▽「県」と回答したところがもっとも多く19の自治体▽「庁内の他部署」が9▽「国」が5▽「指定公共機関」が4などとなりました。
【国民保護どう進める】
調査を共同で行った国士舘大学の中林啓修准教授は国民保護に関する準備の必要性について、「われわれは戦争をコントロールできておらず、例えばウクライナのように、こちら側の思いや取り組みにかかわらず巻き込まれてしまうかもしれず、しっかり準備はしなければいけない」と話していました。
その一方で、取り組みは慎重に進めていくべきだとして、「国民保護の措置を充実させるのは戦争をするためではなく、そういう状況に追い込まれてしまったときに、国民の命や生活や社会を守って残していくためにある。『いざとなれば何もかも捨てて逃げるのが当然だ』と強要するようなやり方ではなく、丁寧に進める必要がある」と話していました。