「パートナーシップ宣誓制度」県内は13の市と町に

6月はLGBTQなど性的マイノリティーの人たちの権利の向上を呼びかける「プライド月間」です。
こうした人たちのカップルが、結婚に相当する関係と自治体が認める「パートナーシップ宣誓制度」が県内でも広がり、この1年に2つ増えて13の市と町になったことが分かりました。

「パートナーシップ宣誓制度」は、同性どうしなど性的マイノリティーのカップルを自治体が結婚に相当する関係と認める制度で、公立病院での面会や治療への同意、公営住宅への入居など、法的な結婚と同じように公的サービスの一部が受けられるようになります。
県内では去年5月末の時点で、岡山市や倉敷市など11の市と町に制度があり、6月3日にNHKが改めて県内の27あるすべての市町村に取材したところ、この1年に赤磐市と早島町で導入されたことが分かりました。
また認められたカップルは、去年5月末の時点で47組でしたが、こちらは6月3日時点で63組と、16組増えています。
一方、制度のない14自治体のうち、津山市はことし10月の開始に向け準備を始めていて、玉野市は来年度の導入を目指し協議を本格的に進めるということです。
また、ほかにも5つの市と町が「導入を検討している」と答えていて、県内の自治体の間で性的マイノリティーの人たちのことや、この制度への理解の深まりが伺えます。

【導入自治体を詳しく見ると】
「パートナーシップ宣誓制度」は9年前(2015年)に、東京の渋谷区と世田谷区で初めて導入されて以降、全国的に広がっています。
県内では、去年5月末の時点でこの制度を導入していたのは、岡山市・倉敷市・総社市・備前市・瀬戸内市・笠岡市・真庭市・美作市・浅口市・井原市・和気町の11自治体でした。
その後、早島町が去年12月に、また赤磐市がことし4月に導入しています。
そして、制度を利用するカップルは、6月3日の時点で、岡山市が32組、倉敷市が17組、総社市が5組、真庭市が3組、笠岡市と浅口市が各2組、美作市と和気町が各1組のあわせて63組です。
この宣誓は住んでいる自治体に対して行うため、引っ越した先に同じ制度があったとしても、改めて宣誓し直す必要があります。
そこで、県内ではおととし10月、岡山市を中心に総社市や備前市など6つの自治体が、転出や転入をしても改めて宣誓をする必要がない「自治体間相互利用」の協定を結びました。
その後、制度を新たに導入した自治体から「この枠組みに参加したい」という声が寄せられたということで、岡山市では相互利用の拡大を検討しています。

【勇気を出して前を向いて生きていってほしい】
ことし3月に宣誓した笠岡市の山室千明さん(37)は、女性として生まれましたが、自身の性別を定義しない「クエスチョニング」です。
物心ついたときから性別に違和感があり、山室さんは「自分が少数派だと分かった時点で、自分のことをだめなんだろうと思っている自分がいました」と話します。
大人になるにつれ、世間が“女性らしい服”の着用を求める場に出ることを避けるようになり、大学の卒業式や友人の結婚式への出席を断り、同級生たちに恋愛観を知られたくないと、成人式もあきらめたといいます。
そんな山室さんを変えたのが、5年前に知り合ったパートナーの近藤仁美さん(42)です。
人前で手をつなぎ、どんな行動や発言をしても否定しないという近藤さんに、とても救われたといいます。
笠岡市内で一緒に生活するようになり、近所の人に関係を隠さず暮らしてきた2人。
これらも一緒に過ごしていこうとことし3月、パートナーシップの宣誓をしました。
自分のことを周囲に隠してきた山室さんは、今まで多くの人の前でお祝い事をしたことがありません。
2人が結婚式のように自宅に友人を招いた「宣誓式」を計画していると市の担当者に伝えると、証明書の交付をみんなの前で行い、お披露目してはどうかという話になりました。
そして5月23日、2人の自宅に友人たち9人が集まり宣誓式が開かれました。
市の職員がパートナーシップ宣誓の証明書を読み上げて手渡し、2人はこの日のためにおそろいで買った指輪を交換しました。
用意したケーキには、性の多様性を象徴する虹の模様が描かれたチョコレートが飾られ、2人が入刀すると、見守った友人たちはクラッカーを鳴らし「おめでとう」と祝福の言葉をかけました。
山室さんが「LGBTや私が何者なのかということを気にせず、受け入れてくれてありがとう。みんなからもらっている最高の愛情です」とスピーチすると、友人たちは涙を浮かべていました。
参加したひとりで、山室さんの高校時代からの友人は「いろいろな思いをしながら生きてきた様子を見ていたので、スピーチを聞き涙が出ました。この場で祝福できたことが何よりうれしいです」と話していました。
立ち会った笠岡市人権推進課の笠原麻希係長は「法律では結婚できないので、なかなか結婚式をしたりというのが難しいと思うのですが、我々もできる限り祝福したいという気持ちで来ました。2人の一生の思い出に残るいい日にしたいと思います」と話していました。
山室さんは「私と同じ悩みを抱えている人もいると思いますが、必ず認めてくれる人は周りにいるので、勇気を出して前を向いて生きていってほしいです。私も頑張ります」と話していました。