久米南町 AI活用の乗り合いタクシーで高齢者の移動手段確保

運転免許を返納したあとの高齢者が、移動手段をどう確保するか課題となるなか、久米南町では、AI=人工知能を活用した、当日の予約ですぐに乗車できる乗り合いタクシーが導入され、人気を集めています。

久米南町の「カッピーのりあい号」は、毎日朝から夕方まで運行していて、利用者が電話や専用のアプリで予約すると町内どこでも行くことができる乗り合いタクシーです。
乗車する人数と出発時刻、到着場所などのデータをもとにAI=人工知能が5台の車両を効率よく配車して運行スケジュールやルートを組んでいます。
高齢者の移動手段を確保しようと、町は4年前、このシステムを導入し、町内のタクシー会社に年間およそ4200万円の補助金を出して運行しています。
システム導入前は町内を5つのエリアに分けて、町の中心部と周辺とを1日12便、決まった時間とルートで回る乗り合いタクシーを運行していましたが、目的地まで遠回りのケースがあったほか午前中と昼過ぎの便に希望が集中するなど課題がありました。
AIにより効率的な運行ができるようになった結果、導入前の令和元年度にのべ8700人だった利用者は、令和4年度にはのべ1万8000人と大幅に増えました。
しかも車両は従来よりも1台少ない5台で対応できるため、経費を年間およそ600万円削減ができたということです。
そこで、平日の運行時間を朝は30分早め、夕方は1時間半延ばすことができ、さらに利用者が増えるという好循環が生まれているということです。
久米南町総務企画課の大家健吾 上席主幹は、「山あいの町なので、高齢者が徒歩や自転車で移動することが難しく、自家用車に頼る状況になってしまう。免許を返納したくてもできないという方の受け皿になればいい」と話していました。

【AI活用タクシーの仕組みは】
久米南町の乗り合いタクシーのAIによる配車システムは、北海道のベンチャー企業が開発しました。
利用者の希望に応じて、AIが効率的な運行ルートを計算し、事務所のパソコンと車両に備えてあるタブレット端末に表示します。
その指示に従って5台の車両で町内全域をカバーしています。
運行時間は、▼平日が午前7時半から午後6時半、▼休日が午前8時から午後5時までで、運行中に新たな利用者がいればそれも踏まえた新ルートをAIが計算し、すぐに車両に指示を出します。
運賃は、距離に関わらず1回300円で、町民だけでなく町外の人も利用することができます。
町が令和2年度にアンケートをしたところ、利用者の6割以上が「行きたい買い物先まで自分1人で行けるようになった」と回答したということです。
また町がかつて走らせていた決まった時間とルートで走る乗り合いタクシーに比べて、「余暇活動での利用」が4.5倍、増えたということです。
一方で、町内のみでの運行なので、町によりますと近隣の自治体にでかける場合の公共交通やタクシーとの乗り継ぎが課題だということです。

【利用者“とても助かる”】
人口4300人ほどの久米南町は去年(令和5年)10月時点で高齢化率が45%を超え県内で2番目に高くなっています。
県の中央にあり、平地が少なく山がちの地形で坂道も多いことから、運転免許を返納した高齢者が徒歩や自転車で気軽に外に出かけるのが難しいのが町の課題でした。
久米南町の中心部から西に6キロ離れた上籾で1人で暮らしている景山金子さん(88)も原付きバイクを手放せないでいました。
しかし、5年前、高齢を理由に警察官に勧められて免許を返納し、3歳年上の夫が運転する車で出かけていましたが、その夫も3年前に亡くなり、乗り合いタクシーを利用するようになりました。
いまでは友人たちとのグラウンドゴルフや買い物のために週3回ほど乗車しています。
この日は、自宅から6キロあまり離れたスーパーへ買い物にでかけましたが、予約の電話をしてから1時間ほどで車が迎えに来ました。
普通のタクシーを使うと片道2000円ほどかかりますが、こちらは距離に関わらず1回300円。
免許を返納した65歳以上の人に交付される「おかやま愛カード」を持つ景山さんは、1回150円で乗車できます。
簡単に呼ぶことができ、15分から1時間程度で迎えに来てくれることからこの乗り合いタクシーなしの生活は考えられないと言います。
景山さんは、「事前の予約を忘れていて直前に電話してもすぐに来てくれるし、運賃も安いのでとても便利です。足の代わりでとても助かっています」と話していました。