人工赤血球の実用化を目指す 奈良県立医大で臨床試験 開始へ

奈良県立医科大学は、献血で集めた血液のうち、有効期間が過ぎたものなどを再利用して人工的に赤血球を作製し、実際に人に投与して安全性や効果を確かめる臨床試験を、来年度(令和7年度)から本格的に始めると発表しました。
実用化すれば、輸血用の血液の不足を補えると注目されています。

これは奈良県立医科大学の酒井宏水教授の研究グループが、記者会見を開いて発表しました。
研究グループは、全身に酸素を運ぶ赤血球を人工的に作製し、実際に人に投与して安全性や効果を確かめる臨床試験を、来年度から本格的に始めるということです。
グループが開発した「人工赤血球」は、献血で集めた血液のうち、およそ1か月とされる有効期間が過ぎたものなどから赤血球の成分だけを取り出し、人工的な膜で包んだものです。
輸血用の通常の赤血球は、冷蔵で保存する必要がありますが、「人工赤血球」は常温で、およそ2年間保存が可能だということです。
今回の臨床試験では健康な人、16人に投与する計画でその後、グループでは投与する人の数を増やすなどして、10年以内の実用化を目指したいとしています。
酒井教授は「実用化できれば、いつでもどこでも輸血ができるようになる。手術や救急医療の現場で活用できるよう、研究をすすめていきたい」と話しています。

【献血の現場は】
日本赤十字社によりますと、献血された血液からは▼赤血球▼血小板▼血しょうの成分に分けて輸血用の血液製剤が作られ、このうち、赤血球の製剤の有効期間は採血後、28日間ということです。
このため、日本赤十字社では医療機関への供給量を調整しながら、期間内に使えるようにしていますが、中には期限が切れて廃棄しないといけないものもあるということです。
さらに、1人が1年間にできる献血の回数や量には上限があるため、血液製剤を安定して供給するためには、多くの人が継続的に献血する必要があります。
しかし近年、若年層の献血が減少していて、30代以下は令和3年度までの10年間で、およそ30%減ったということです。
また、献血には年齢制限が設けられているため今後、少子高齢化がさらに進むと、血液製剤が不足するおそれがあるということです。
奈良県赤十字血液センター献血推進課の大東雄一 係長は「少子高齢化によって将来、医療機関に安定的に血液製剤を届けることができなくなり、日本の輸血医療が成り立たなくなることが懸念されていて大きな課題だ」と話しています。