蛇行剣の「つか」刀と剣の特徴をあわせ持った特殊な形

奈良市の古墳で発見された古代の東アジアで最も長いとされる鉄剣は、持ち手部分の「つか」が後の時代の刀と剣の特徴をあわせ持った特殊な形だったことが新たにわかりました。
専門家は古墳時代の刀剣類の変遷を知る上で極めて重要な資料になるとしています。

4世紀後半に造られたとされる奈良市の富雄丸山古墳からは昨年度の調査で古代の東アジアで最も長いとされる長さ2メートル30センチ余りの「蛇行剣」(だこうけん)と呼ばれる波打つような形の鉄剣が見つかり奈良県橿原市にある県立橿原考古学研究所で表面のさびや泥を取り除くクリーニング作業が行われてきました。
その結果、持ち手部分の木製の「つか」は、「把頭」(つかがしら)と呼ばれる先端の部分がアルファベットの「L」のように曲がっているほか、「把縁」(つかぶち)と呼ばれる刃に近い部分の片側に突起がついている特殊な形をしていることが新たにわかりました。
▼L字形の「把頭」は後の時期の刀に、▼「把縁」の突起は後の時期の剣にみられる特徴で、双方の特徴をあわせ持つ「つか」が見つかったのは、初めてだということです。
また、剣を収めていた木製の「さや」には先端に長さ18センチほど、直径2センチほどの細長い棒のようなものがついていることもわかりました。
これは、刀剣を立てて置く際にさやの先が直接地面に触れないようにする「石突」(いしづき)ではないかと考えられていて、後の時期の「やり」などには見られますが、古墳時代の刀剣で見つかったのは初めてだということです。
古墳時代に詳しい県立橿原考古学研究所の岡林孝作学芸アドバイザーは「古墳時代の刀剣類の変遷を知る上で極めて重要な資料になる」と話しています。
この蛇行剣は、3月30日から4月7日まで、橿原市にある県立橿原考古学研究所の付属博物館で一般に公開されます。

【蛇行剣の特殊性とは】
古代の刀と剣の「つか」の特徴を併せ持っていることがわかった富雄丸山古墳の「蛇行剣」について、古代の刀剣に詳しい専門家はこの剣の特殊性をさらに強調することになったとしています。
古代の刀剣に詳しい奈良大学の豊島直博 教授によりますと、今回明らかになった蛇行剣の「つか」のように先端部分がアルファベットの「L」の字のように曲がった形になるのは、4世紀後半に造られたとされる富雄丸山古墳より後の時期、5世紀の刀の特徴だということです。
また、「把縁」と呼ばれる刃に近い部分の片側に突起がつくのも同じ5世紀の剣の特徴だということです。
豊島教授は「刀と剣、それぞれの形が定型化する前の試行錯誤の段階でつくられたのではないか」としたうえで、「ものすごく大きな蛇行剣は儀式や儀礼で使う特別な剣だと思われるが、そこに取りつけられていた『つか』や『さや』も特別な形のものだったことで、この剣の特殊性がさらに強調されることになった」と話しています。

【奈良市の埋蔵文化財調査センター所長 談話】
蛇行剣の調査にあたった、奈良市の埋蔵文化財調査センターの鐘方正樹 所長は、「長大な蛇行剣の全容が突き止められ、非常に大きな意義があった。良好な状態で残っていたものを室内で最大限、慎重に調査をしたことで、大きな成果を得ることができたのではないか」と話しています。

【刀鍛冶 河内國平さん 談話】
古代の刀や剣の復元も手がけている奈良県東吉野村の刀鍛冶、河内國平さんは「2メートル余りという刀身の長さに対して『つか』が短いと感じる。剣の重さもかなりありそうで一人で持てるようなものではなかったと考えられ、実用的な武器としてつくられたものではないと思う」と話しています。