山下知事 前知事の進めた大型事業などの大幅見直しを表明

先月の就任後、大型事業などの見直しを進めていた奈良県の山下知事は、12日記者会見を開き、奈良市の平城宮跡を横切る近鉄奈良線の移設に関する予算の執行を取りやめるなど、前の知事の”肝いり事業”を大幅に見直すことを表明しました。

奈良県の荒井前知事が推し進めていた大型事業などの見直しを公約に掲げ、維新公認で当選した奈良県の山下知事は、先月の就任後、20の項目について予算の執行をいったん停止し、必要性などを見極める「査定」を進めてきました。
山下知事は、12日、記者会見を開いて結果を公表しました。
それによりますと、▼2000メートル級の滑走路を備えた大規模広域防災拠点を五條市に整備する事業は、滑走路の規模など計画が大幅に見直され、26億円3千万円余りの予算額の95%にあたる24億9千万円余りを執行しないとしています。
また、▼2031年に開催が予定されている国民スポーツ大会については、実施する方向に変わりはないものの、橿原市に現在ある県立の競技場を改修すれば問題ないとして、新たな競技場の整備に向けた2億2700万円余りの予算全額の執行をとりやめる方針です。
▼「近鉄奈良線の移設」については、近鉄大和西大寺駅や周辺の線路を高架化する事業は、「開かずの踏切」を解消するために継続するものの、奈良時代の都の中心部、平城宮跡を横切る線路の移設に向けた関連予算、3100万円あまりの執行を中止するとしています。
予算の執行をいったん停止していた20項目のうち、荒井前知事の”肝いり事業”を中心に15の項目が大幅に見直されたかたちで、山下知事は、現時点では68億円余り、将来的にはおよそ4730億円の事業費の削減につながると説明しています。
山下知事は、「執行中止で得た財源は、できるだけ今後の予算案に反映し、子育て支援や医療福祉の充実など県民の暮らしに関わる分野にあてたい。見直しの対象となった事業がある市や町との協議は継続していく」と話しています。

奈良県議会は、今月16日に開会しますが、山下知事は今回の見直しの結果を予算を減額する議案ではなく、議会での答弁で説明するかたちをとることにしていて、今後、奈良県議会で過半数の勢力を持つ自民党系の会派などにどのように説明し、理解を求めるかが焦点となります。

■各事業の見直しの詳細は■
<五條市大規模広域防災拠点>
五條市に計画されている大規模広域防災拠点は、2000メートル級の滑走路を備えたものにするという、いまの整備計画が見直されます。
今後は、国の財政援助が得られる範囲で、防災目的の整備内容を検討するとしています。
今年度は26億3000万円余りの予算がつけられていましたが、工事用道路用地の取得費など24億9000万円余りを中止し、執行するのは、計画見直しの検討経費や購入した土地の維持管理経費だけとなります。
また、この防災拠点へのアクセス道路となる国道168号のバイパス整備に関する事業も、今回の見直しに伴って中止されます。

【五條市長「防災拠点は必要」】
「査定」の結果、2000メートル級の滑走路を備えた大規模防災拠点を設置する、いまの計画が大幅に見直されることになった五條市の平岡市長は、報道陣の取材に対し、「より高性能な航空機の離着陸や支援物資の搬入などの面で2000メートル級の滑走路は必要だ。五條市以外にも紀伊半島全体への迅速な支援ができるようになると思うので、関係市町村と連携しながら、県に設置を要望していきたい」と話していました。

<橿原市スポーツ施設>
2031年に開催が予定されている国民スポーツ大会については、実施する方向に変わりはないものの、会場となる施設は新設するのではなく、いまある県立の陸上競技場「橿原公苑」を改修するほか、市町村の施設も利用するとしています。
競技に必要な施設が県内にない場合や足りない場合は、近隣府県にも協力を呼びかける方針だということです。
これにともない、新たな競技場の建設に向けた調査費など、2億2700万円余りの予算全額が執行中止となりました。

【橿原市長「必要性伝えたい」】
橿原市の亀田市長は記者会見で、「奈良県にこれまでなかった高規格な施設の整備は、スポーツ振興や中南和地域の発展に寄与するチャンスだ。既存施設の改修だけでは大会を乗り切るためだけの施設になってしまう」と述べました。
そのうえで「長年かけて検討してきた計画が非常に短期間の査定で見直しになったと思う。これまで検討されてきた必要性などを今後、協議の場で伝えていきたい」と話しました。

【奈良市長「調整簡単でない」】
国民スポーツ大会の会場の整備の見直しに関連して、山下知事が奈良市のロートフィールド奈良を使用する意向を示したことについて奈良市の仲川市長は、「ずっと県は陸上競技は橿原市で行うと主張し、地元の市や競技団体は準備を進めてきた。急転直下で変えるのは地元自治体などに影響が大きいと思う。奈良クラブのホームグランドとしても使用しているため、調整は簡単ではない」と述べました。

<大和平野中央田園都市構想>
磯城郡の3つの町を拠点に進められるまちづくり、大和平野中央田園都市構想では今年度37億円余りの予算がつけられていましたが、▼三宅町に整備が予定されていた県立の工科大学の設置認可に向けた予算や、▼田原本町に予定されていたスポーツ施設の整備事業などが見直され、36億円余りの執行が中止されることになりました。
すでに用地の取得が進んでいることもあり、山下知事は企業や研究所を誘致したほうが持続的な雇用を生み出すと説明しています。

【田原本町長「丁寧な手続きを」】
田原本町の森町長は、「大和平野中央田園都市構想は、令和2年から3年間、手続きを踏んで進めてきているので、方針を変えるなら丁寧な手続きを踏んでほしい。知事から、企業誘致など土地利用について協議したいと提案をもらっているが、いまの構想よりもより良いものにしないと意味が無い。なるべく早く、3町長と知事で協議したい」と話していました。

【川西町長「対話を進める」】
大和平野中央田園都市構想が大幅に見直されることになったことについて、川西町の小澤晃広町長は「『奈良のために』との思いで、多くの関係者とともに取り組んできた構想の整備事業の方針が覆るのは残念ですが、新県政も『奈良を良くしていこう』との思いは同じだと考えますので、改めて知事や県と対話を進め、協働関係をつくり、地域の暮らしと未来のために取り組んでいきます」とコメントしています。

<近鉄奈良線の移設計画>
また、奈良市の近鉄大和西大寺駅や、周辺の線路の高架化、奈良時代の都の中心部、平城宮跡を横切る近鉄奈良線の移設については、「開かずの踏切」を解消するために、大和西大寺駅周辺線路の高架化については引き続き進めるとしています。
一方、平城宮跡を横切る近鉄奈良線の移設については、計画を取りやめる方針で、今後、近鉄や奈良市と協議することにしています。
こうした方針の変更に伴って、総額1億2000万円余りのうち、3100万円余りの執行が中止となる見込みです。

【奈良市長「見直しは妥当」】
奈良市の仲川市長は「当初、近鉄が主張した案に戻っただけだ。平城宮跡をう回するルートへの移設に莫大な金がかかることを考えると、極めて妥当だと思う。奈良市、県、近鉄の三者で話し合っていきたい」と述べました。

【近鉄「引き続き協議」】
山下知事が奈良市の平城宮跡を横切る近鉄奈良線の線路の移設を見直す考えを表明したことについて、近鉄広報部は「県としての方向性が出されたことを踏まえ、引き続き協議していく」とコメントしています。

<リニアと関空接続線>
山下知事はリニア中央新幹線は必要だという立場を示していて、奈良市附近駅の早期確定については全面的に協力する方針です。
このため、4500万円の予算のうち、新駅の位置確定に向けて、県に関係する経費は執行しますが、荒井前知事が掲げていた新駅から和歌山を経由して関西国際空港を結ぶ新たな鉄道ルートの整備に向けた調査・検討は行わないとして、関係経費3500万円の執行を中止します。

<中央卸売市場建て替え>
大和郡山市にある県中央卸売市場ついては、現在、老朽化した建物の建て替えなどが検討されています。
市場の機能に加えて、周辺ににぎわいエリアを作る計画となっていましたが、市場のエリアについては将来の取引量の減少なども踏まえて整備計画を再検討する方針です。
また、にぎわいエリアとして設けようとしていた子どもの遊び場などは、公園など別の場所で検討すべきだとして見直すことにしています。
これにより、総額6億6000万円余りのうち、1億3000万円余りの執行が中止されます。

<西和医療センター移転・再整備>
現在、三郷町にある西和医療センターの移転・再整備については、用地が狭く、線路など施設の撤去費用がかさむことから、JR王寺駅南側に加えて、ほかの候補地も検討するとしています。
これを受けて、総額9900万円余り盛り込まれていた予算額のうち、JR王寺駅南側での建設を前提としてつけられていた6800万円余りの予算の執行が中止されます。

<平城宮跡の整備>
奈良市にある平城宮跡歴史公園の南側や、朱雀門の東側のエリアの整備については、新たな施設の建設を前提とするのではなく、既存の施設を活用する方向で、今後のあり方を再検討するとしています。
総額3億9000万円余りのうち、執行するのは用地の維持管理費などだけで、そのほかの費用、1億3000万円余りは執行が中止されます。