曽爾村 草木染めで暮らしを山里の色に染める

奈良県の北東部の山あいにある曽爾村には、豊かな自然の色彩を暮らしの中に取り入れようと、草木染めに取り組む女性たちがいます。

自然が織りなす色とりどりの色彩を糸や布に染める草木染め。
曽爾村で草木染めに取り組んでいる女性3人、並木美佳さんと大向英子さん、そして、高松久美さん、ユニット名は「山杜色(さといろ)」です。
山と杜(もり)の恵みをいただくという意味をこめて、「山杜色」という名をつけました。
結婚や移住を機に村で暮らし始め、染色を通して知り合った3人。
自然豊かな曽爾村では、染める素材は、暮らしのすぐそばにあります。
メンバーの1人、並木美佳さんは、漆発祥の地といわれる曽爾村の漆に興味があって村に移住することにしたそうです。
漆にたずさわる中、並木さんが知ったのは、漆の木から漆かきで漆の液をとったあと、その木は伐採して、使われることなく置いてあるということでした。
その漆の木が染め物の材料になると聞き、漆の染色を始めました。
並木さんが開いた漆染めのイベントをきっかけに3人は意気投合し、「山杜色」の結成へとつながりました。
並木さんが染色作業の時につけているのは、漆で染めたエプロンです。
「伐採された漆の木が、良い形で生まれ変わって活用できるというのは、いいことだなと思って」
「山杜色」のメンバーは、子育てや仕事の合間にそれぞれの自宅や時間の合うときには、みんなで集まって、新たな草木の素材を試しています。
この日は、草花の色や形を版画のように写し取る新たな草木染めに挑戦することに。
川の土手や自宅の庭の植物、そして、畑で育て、乾燥させた花を持ち寄って染めてみることにしました。
中でもいろんな素材を持参したのは、大向英子さん。
ホウレンソウ農家を営む夫との結婚を機に、曽爾村で暮らし始めた大向さん。
「実験好きなんで、家に畑もあるので花を植えてみたりしています」
マリーゴールドや藍などを栽培するとともに、いろんな自然の素材を使って糸などを染めしている大向さんは、さらに、その糸を使ってアクセサリーも作っています。
大向さんは、「染めてものを作ることによって、自分の心が豊かになる」といいます。
「山杜色」の活動は、村の内外に広がっています。
自分たちが味わった草木染めの楽しさを多くの人に体験してもらおうと、村の内外でワークショップを開いてその魅力を伝えています。
さらに、「山杜色」が染めたものは、村在住のデザイナーが手がけた特産品のパッケージにも用いられました。
パッケージのデザインしたのは、村在住のデザイナーの山本真由さんです。
「農家さんの思いだったり、いろんな人の思いが詰まった商品なので、色味が毎回違ったりムラがあったりするのが人が染めているんやという優しさみたいなものが伝わってきます」
メンバーの暮らしは、草木染めとともにあります。
高松久美さんは、自然の中でのびのびと過ごそうと、7年前に神奈川県から家族で村に移住しました。
村役場に勤める夫と息子と2人と娘の5人で暮らす高松さん、子どもたちの服も草木染めしたものが多いそうです。
中でも、キハダとマリーゴールドで染めたものは、息子たちのお気に入りだそうです。
以前、勤めていた植物園で草木染めと出会った高松さんにとって、自然あふれる曽爾村は宝の山だといいます。
この日は、スギを使った染色に初めて挑戦するために、自宅の裏山で、娘と素材探しにでかけました。
薄ピンク色になるという杉を使った染色。
期待を胸に待つこと数時間。
出来上がった布は、黄色のような茶色のような色でした。
しかし、その中に、まだら模様に少しだけピンク色に染まっている部分を見つけて大喜び。
2色が出たのは、初めてだそうです。
「ちょっと何かピンクがなんかありますね、こんな感じになりました、なんかここだけピンク、おもしろいですね、なんでだろう」
同じ植物でも、日によってうまく染まる時と染まらない時があるという高松さん。
うまくいかなくても、想像した色とは違っても、それがまた草木染めのおもしろさだと言います。
「自然の色ってほんとうにきれいだなって毎回思うし、やっぱり思いどおりにならないところ、ならなくてもきれいだし、なんか子育てというか、子どもも思いどおりにならないですけど、それが面白いなって、一緒だなと思いますね草木染めは」
「山杜色」のメンバーが、新たに挑戦した草木染めが出来上がりました。
うまく染まった植物と、色が出なかった植物がありましたが、メンバーの反応は「想像以上です」「きれいです」。
草木が織りなす色とりどり色彩。
山里の暮らしを豊かに彩っています。