障害者に支払われる工賃めぐる裁判 訴え退ける 名古屋地裁

障害がある人に作業所で支払われる工賃が「労働の対価」にあたるかどうかが争われた裁判で、名古屋地方裁判所は「工賃は、労働を提供した対価としてではなく、福祉サービスの一環として利用者が受け取っていると言える」などど指摘し、社会福祉法人の訴えを退けました。

名古屋市の社会福祉法人「ゆたか福祉会」は、愛知県内で13か所、障害がある人の作業所などを運営していて、このうち、障害の程度が比較的重く雇用契約を結ばない人などが利用する「就労継続支援B型事業所」では、ペットボトルのリサイクルなどの作業を担当しています。
ゆたか福祉会は作業の内容などに応じて工賃を支払っていて、「作業は社会的に有用な『労働』で、工賃はその対価だ」などと主張し、国に対し、納めた消費税の一部を返還するよう求めて訴えを起こしていました。
一方、国は「『労働の対価』とは言えない」などとして訴えを退けるよう求めていました。
18日の判決で、名古屋地方裁判所の剱持亮裁判長は「利用者は自らの能力向上などのための訓練として生産活動に従事しているというべきだ。工賃は、労働を提供した対価としてではなく、福祉サービスの一環として利用者が受け取っていると言える」などど指摘し、訴えを退けました。
判決のあと、ゆたか福祉会の鈴木清覺理事長は「障害がある人たちに、ただ訓練や福祉を受けてもらいたいというわけではなく、働く場を作りたいという思いでやっているので、この判決は許しがたい」などと述べ、控訴する意向を示しました。
【事業所の利用者は】
名古屋市南区にある「就労継続支援B型事業所」の「リサイクルみなみ作業所」では、およそ30人の利用者が1日6時間ほど、ペットボトルの分別の作業などにあたっています。
この作業所を8年ほど前から利用している名古屋市の下堀彩佳さん(25)は「作業はけっこう大変ですが、やりがいを感じています」と話し、同じく名古屋市の竹内涼馬さん(31)は「作業は忙しく、仕事だと思っています。工賃をもらえるのはうれしく、生活費などにあてています」と話していました。
リサイクルみなみ作業所の大野歌織所長は「今の工賃では自立して生活するのは厳しいと思います。支援を受けながら仕事をすると、仕事とは認められないというのは違うと思うので、労働だと認めてほしいです」と訴えていました。
【専門家“法律見直しの議論も必要では”】
租税法に詳しい青山学院大学の三木義一名誉教授は、判決について「障害者の人たちが働いていることと、それに対して一定の報酬をもらっていることを、裁判所が『あなたたちは労働していると言えない』と判断したと言え、これが本当に社会的に見て良いことなのかと感じる」と指摘しました。
そのうえで、「消費税の側面からも、障害者の就労支援の事業を支えることが望ましいと思う。法律自体の見直しを議論していくことも必要ではないか」と話していました。