養護学校暴行訴訟 名古屋市に賠償命じる判決

名古屋市の特別支援学校に通っていた障害のある男性が、元教諭から日常的に暴行を受けていたのに、学校側は適切な対応を取らなかったとして、名古屋市などに対して賠償を求めた裁判で、名古屋地方裁判所は日常的な暴行を認めた上で、「対応は遅きに失したものだ」として市に165万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

知的障害と自閉症がある24歳の男性は、2014年から卒業まで在籍していた名古屋市立天白特別支援学校、旧称・天白養護学校で男性の元教諭から蹴られるなど日常的に暴行を受けていたのに学校側は適切な対応をとらなかったとして、名古屋市と元教諭に対し、550万円の損害賠償を求めていました。
これまでの裁判で、名古屋市は一部の暴行があったことを認める一方で、「適切に対応した」などと主張していました。
一方、元教諭は「日常的な暴行はなかった」などと主張していました。
30日の判決で、名古屋地方裁判所の西村修裁判長は、元教諭による日常的な暴行や暴言があったことを認めました。
その上で、「校長は元教諭の日常的な暴行や暴言について把握し、指導・注意をしていたが、なかなか浸透しなかった。市の教育委員会に報告すべきで対応は遅きに失したものだ」などとして、名古屋市に対して165万円の支払いを命じました。
一方、元教諭については、公務員個人の賠償責任は認められないとして訴えを退けました。
この問題をめぐっては、元教諭は、当時、高等部3年生だった原告の男性を蹴ったなどとして暴行の罪に問われ、罰金刑を受けています。
【原告の両親と弁護団が会見】
判決のあと、原告の両親と弁護団が名古屋市内で会見を開きました。
この中で母親は、「市の教育委員会の責任を加味してくれたのはいい判決だと思う。先生はもっと障害のある生徒に接する上で、教養を身につけてほしいし、学校は子どもや保護者にとって安心できる場所になってほしい。教育委員会がそこまでしっかりやってくれるかにかかっていると思う」と話しました。
弁護団の林翔太弁護士は、「校長個人の問題だけではなく、教育委員会独自の責任だと断罪しているところなどをみると、教育委員会や学校のあり方についてかなり踏み込んだ判決だと評価している」と話しました。
弁護団は、今後、名古屋市側に控訴しないよう求めるとともに、再発防止に向けた実践的な取り組みが行われているのか注視していくとしています。
【名古屋市教育委員会は】
判決を受けて、名古屋市教育委員会は、「原告の方に対して改めて心よりおわび申し上げます。引き続き再発防止に取り組んでまいります」などとコメントしています。
【専門家は】
自閉症や特別支援教育について詳しい東京学芸大学の平田正吾准教授は、学校において日常的な暴行を防げなかった背景として、▼教員どうしで注意や制止ができる関係性ができていなかったことや▼校長などの管理職への報告以外に、教育委員会に通報がいく仕組みが整備されていなかったことがあるのではないかと指摘します。
その上で、再発の防止に向けて、対策を講じるだけでなく、卒業生の就労先となる事業所の関係者や地域の人に定期的に授業の様子を見てもらうなどして、社会に開かれた学校にすべきだと言います。
平田准教授は、「強制的に威圧的な言動をとって何かを抑えるというのは許されないことだ。教員だけでは対応に限界があるので、医療機関や心理の専門家の助言も受けつつ、チームで支えていく姿勢が求められるのではないか」と話していました。
【再発防止策と現状】
この問題を巡っては、名古屋市教育委員会が調査し、元教諭が▼生徒を蹴った行為や、トイレの天井に水をかけ個室にいる別の生徒をぬらした行為を確認したほか、▼複数の生徒に対して「デブ」や「ばか」などの発言をして不適切な指導を行ったと認定しました。
また、市内の特別支援学校の教職員を対象としたアンケートを行った結果、教職員の21%が、「時と場合によっては威圧的な言動はしかたがないと思う」と回答する結果となりました。
こうした結果の背景について、市教育委員会は、障害のある子どもがパニックになって走り出すのを止めたり、安全を確保したりするためにはやむをえないという考えがあると分析しています。
市教育委員会は再発防止策として▼大学教授などの専門家を定期的に特別支援学校に派遣して、管理職に学校運営などの助言をしてもらうことや▼特別支援学校に勤務する教諭に障害者教育専門の教員免許の取得を促すことなどの取り組みを進めてきたということです。
その結果、特別支援学校に勤務する教諭における専門の教員免許の保有率は、去年5月時点でおよそ95%で、暴行事件が発覚した時期と比べて10ポイント近く上昇したということです。
また、早い段階で虐待や体罰の兆候をとらえるため、匿名でも校長などに伝えることができる「報告シート」を各学校で配布する取り組みも行っているということです。