笹子トンネル事故11年 対策必要な道路インフラの割合減らず

山梨県にある中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落し、9人が死亡した事故から11年です。
全国の道路や橋では5年に1度の点検が義務化され劣化した橋の補修などの対策が行われていますが、対策が必要な道路インフラの割合は大きくは減っておらず、専門家は「損傷が深刻になる前に手当てを進め、効率的な維持管理をすることが重要だ」と指摘しています。

11年前の中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落した事故では9人が死亡するなどしました。
事故のあと国は全国のトンネルや橋などの道路インフラに5年に1度の点検を義務づけ、2014年度から2018年度にかけて1巡し、2019年度からの2巡目の点検が今年度で終わる予定です。
結果は状態に応じて「1」から「4」の4段階に分けられ、「3」は早期に、「4」は緊急に補修などの対策が必要です。
国土交通省によりますと1巡目の点検で「3」以上と判定された割合はトンネルで41パーセント、橋で10パーセント、落石対策などの道路附属物で15パーセントでした。
これに対し2巡目で4年が終了したことし3月末時点で「3」以上と判定されたのは、トンネルが30パーセント、橋が8パーセント、道路附属物で12パーセントと大きくは減っておらず、中には1巡目よりも増えている地域もあります。
背景には高度経済成長期以降に整備されたインフラが多く、老朽化する橋やトンネルが急激に増えていることが指摘されています。

【長野県内の状況は】
全国各地で道路インフラの点検や補修が進むなか、直した橋よりも新たに壊れたり壊れそうになる橋の数が多く、『いたちごっこ』の状況となる地域も出てきています。
国は橋やトンネルなど道路インフラについての点検結果を「1」健全、「2」予防保全段階、「3」早期措置段階、「4」緊急措置段階に分けています。
長野県では管理するおよそ3800の橋のうち、早急に補修などが必要な「3」以上の判定が、1巡目で983件だったのに対し2巡目では4年目を終えたことし3月末時点で1071件とおよそ1割増えました。
県によりますと1巡目の点検を受けてこれまでに378か所で対策を終えた一方で、1巡目で「2」以下だった466か所の橋が新たに「3」以上になり、結果として数が増えたということです。
このうち1巡目に「2」と判定された上田市の国道143号線にかかる橋の点検では、2巡目で床板の亀裂の幅が広がっているのが確認され、新たに「3」と判定されました。
点検のたびに対策が必要な橋が増え続けると試算されることから、県では、例えば塩化物を含んだ凍結防止剤と橋の劣化の関係など、これまでの点検データを詳細に分析して損傷が深刻化する前にいち早く補修を行う方法を検討していくことにしています。
長野県建設部の新田恭士部長は「いたちごっこというよりむしろ状態の悪い橋の数の割合がどんどん増えて、管理上、非常に危機的な状況になると心配している。壊れてから直すのではなく健全な状態のうちに、ある程度、手当てをすることで壊れるスピードを抑えるなど対策を進めたい」と話しています。

【専門家は】
急速に進む道路インフラの老朽化について、専門家は傷んだ施設の対策だけでなく、傷む前に手当てをする“予防保全”も進めることが重要だとした上で、優先順位をつけて効率的に維持管理することが求められると指摘しています。
北海道大学の長井宏平教授は橋やトンネルの老朽化の現状について「このままでは直さなければならないインフラが膨大になって対応が追いつかない危険な状況になる。一方、行政の予算にも限りがあるので効率的な維持管理を考えて劣化のスピードを抑えていく必要がある」と話しています。
具体的には「早めに手を打つ“予防保全”をすることで安全性が高まり、長期的に補修の予算が減ることも考えられる。都道府県や自治体など管理者は施設の構造的な劣化を診断するだけではなく、長期的な予算や重要度など補修の優先度を考え、維持管理していくことが求められる」と話しています。
そのうえで長井教授は「橋のどの場所が傷みやすかったかなど過去のデータを抽出することで今後の劣化予測につなげることができる。人口や交通量の変化などほかのデータと組み合わせてインフラの使われ方の将来像を予測することで、維持管理の優先度を多角的に決めていくことが期待される」として、自治体などが大学や研究機関と連携して蓄積されたデータを活かすための取り組みを進めるべきだと指摘しました。