“ブラックホールが自転” の証拠観測 岩手の観測所などで

20年以上にわたって撮影した画像のデータを解析した結果、ブラックホールが自転しているという証拠が得られたと国立天文台などの国際研究グループが発表し、巨大なブラックホールの謎を解明する新たな手がかりになると注目されています。

日本や韓国それに中国などの国際研究グループは、地球から5500万光年離れたおとめ座の「M87」と呼ばれる、銀河の中心にあるブラックホールの方角を、日本の7か所を含む世界各地の電波望遠鏡を活用して観測を行いました。

観測で得られた画像には、ブラックホールの「ジェット」と呼ばれる高温のガスが光に近い速度で噴き出す様子が撮影されていて、20年以上にわたる画像のデータを解析した結果、「ジェット」の向きがおよそ11年周期で変化していることが分かったということです。

これは、国立天文台がブラックホールが自転していると仮定して行ったスーパーコンピューターによるシミュレーションの解析結果とよく一致することから、研究グループはブラックホールが自転している証拠が得られたとしています。

ブラックホールが自転することは理論的に予想されていましたが、今回、直接的な証拠となることから、巨大なブラックホールの謎を解明する新たな手がかりになると注目されています。

国立天文台の秦和弘助教は「地道なデータの積み重ねが大きな発見につながりました。ブラックホールの自転はジェットの形成と関係していると考えられ、銀河の形成などをひもとく手がかりにもなる成果だと考えています」と話しています。

この研究は国際的な科学雑誌、「ネイチャー」に日本時間の28日、発表されました。

【岩手の観測所では】
今回、日本から観測に参加した7か所の電波望遠鏡のうち最も北にあるのが、岩手県奥州市にある観測所、「国立天文台水沢VLBI観測所」に設置された電波望遠鏡です。

直径20メートルのアンテナを持つ電波望遠鏡で、▽ブラックホールと▽そこから吹き出す「ジェット」と呼ばれる高温のガスが光に近い速度で吹き出される様子を去年までの10年間に100回以上、観測してきました。

5500万光年離れた銀河の中心にあるブラックホールを観測するためには、世界各地の電波望遠鏡でネットワークを組み画像の解像度を高める必要があります。

そこで重要なのが、観測時間を正確に合わせることです。

そのため、観測所内には1億年に1秒しかずれないほど正確な原子時計が設置されていて、精密な観測を実現しています。

また、23年間にわたる世界各地での観測で得られた170枚の画像の解析や、観測をもとにしたデータでブラックホールから吹き出すジェットの動きのシミュレーションを作成する際には、観測所にある「アテルイ2」と名付けられた、専用のスーパーコンピューターを活用したということです。

27日行われた研究成果の報告会で、研究者は「自転しているかはブラックホールの特徴を捉えるうえで重要な要素だが、ブラックホールそのものは真っ暗で自転しているか分からない。噴出しているジェットに着目し、そこから根元にあるブラックホールの自転の有無を確かめた」などと述べました。

そのうえで今後は、ブラックホールの動画を作成し、今回発見されたジェットの向きが変化する動画と比較することで、ブラックホールの自転速度と、ジェット発生のメカニズムの解明につなげていきたいとしています。

国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘助教は「今回の成果は宇宙の仕組みを解明するうえでも非常に大きな意味がある。ブラックホールのプロフィールについて、1つの大きな隠された謎を解き明かしたということで非常にうれしい」と話しています。