大井川知事インタビュー後編「インバウンド・人口減少・原発」

2024年の新春インタビューとしてNHK水戸放送局は、茨城県の大井川知事にことしの県政の課題について聞きました。
インバウンド需要をどう取り込むかや人口減少、さらに東海第二原発の再稼働の判断などさまざまな課題に、どう対応していくのか。
インタビューの後半を、一問一答形式でお伝えします。

Qことしは新型コロナの行動制限がない1年となるが、インバウンド需要をどう取り込んでいくか。

Aインバウンド需要は私も非常に重視しています。
円安などもあって日本の地位が世界の中でどんどん下がっている中で、海外の経済を取り込んでいくことは非常に重要になっています。
その方法の1つは、物を輸出して海外からお金をもらうやり方もありますし、投資をしてもらうというのもあります。
もう1つがインバウンドの観光客を受け入れて、県の中で消費してもらう。
それも含めて、海外とのつながりを強くすることが、今後、人口減少社会を生き抜く上で非常に大事だと思っています。
例えば、去年、台湾がちょうど福島第一原発事故以降初めて、茨城県の農産物の輸入を解禁したので、それを契機に大々的にキャンペーンをやらせていただきました。
そのあと台湾からのお客様が大変増えてきていると思っています。
これをしっかりとリピーターとして定着させて、かつさらに増やしていくことも重要ですし、あるいは、日本に最も多い観光客はいま韓国と聞いています。
韓国の方々は非常にゴルフ需要が強いお国柄なので、この茨城県の豊富なゴルフ場を踏まえてしっかりと、ゴルフツアーなどのキャンペーンを行って、来ていただく。
そういう戦略をしっかりと行っていくことが重要と思っています。
コロナ禍であっても、インバウンドを狙ってインターネットなどの配信を含めて海外へのプロモーションは続けてきました。
たまたま今回は中国から団体客がなかなか増えない状況で、定期便も1回再開してもまた中止になってしまったり、中国市場は苦戦していますがいずれは戻ってくると思います。
その時のために我々ができることはしっかりとやっていくということだと思います。
そのためにも、海外のインバウンドの観光客を意識した形での、茨城県の観光コンテンツの磨き上げが非常に重要で、そのためのさまざまな投資というのは民間も含めて誘致していきたいと思いますし、それによって茨城県の観光地としての立場もですね、ガラッと変わってくるのではないかと思います。
例えばロングトレイル。
「常陸国ロングトレイル」という名に改めましたが、有名なヨルダンのロングトレイルと連携することによって世界中からお越し頂く機会を増やして来ていただき、かつその特徴として、茨城県のロングトレイルに来たインバウンドの観光客は、里山とか茨城県の人との交わりとか、そういう日本の原風景を体験していただくというような、そういう売り込みで、今後展開することでまた違った茨城県の魅力をインバウンド向けに作り出すことができるのではないかと思っています。

Q去年は茨城空港の着陸制限が緩和された(1時間あたり1便の着陸制限が2023年10月に緩和された)。
一方で中国便は去年2路線が相次いで運休した。
ことし空港をどう活用していくか。

A発着枠が増えるので、それを踏まえて定期便を中心にさまざまな形での誘致を行っていきたいと思っています。
中国がなかなか復活してこないことは悩ましいですが、これも枠自体はちゃんと持っていますので、いずれは復活してくると踏んでいます。
その間に、例えば無くなってしまった韓国便の復活や東南アジアからの便であるとか、あるいは台湾からの便をさらに増やしていくとか、チャーター便という形から入って定期便につなげていく形で増やしていくことも重要だと思います。
いま飛んでいるスカイマークもオーナーが変わっているので、さらに国内便を増やしていく努力も可能だと思っています。
茨城空港の利用のしかたが大きく変わってくる可能性はあると思うので、それにつなげた投資計画も今後準備していかなくてはいけないと思っています。

Q人口減少が続く中、ことし最も力を入れたい取り組みは。

A減る人数のほとんどは労働力人口と言われる15歳から64歳の人です。
その人数の比率がどんどん減っていくんですね。
これだけの人口減少、さらにこのあと2050年以降も続くわけですが、非常に社会に大きなインパクトを与えざるを得ないと思います。
人口減少社会をどう対応するかというのは、今まで説明してきたこと全部が人口減少対策ではあるんですね。
要するに経済力を引き上げて、働き方でも労働分配を増やして、人口は少なくても豊かで暮らしやすい社会を築いていくことを目指していかなくてはいけない時代です。
そのためには海外とのつながりを今まであまり考えてなかった人も考えざるを得ないし、いろいろなことを考えなくてはいけません。
働き方も今までの規制を大きく見直さなければいけない。
これは本当に国も含めて抜本的に、茨城県だけではなく日本が変わらなくてはならない局面になってきていると思います。
また人口減少で最も変えなくてはいけないのが労働所得の問題です。
少子化の最大の要因はそもそも結婚しない、あるいは晩婚化、この2つの現象だと言われてます。
そこを見直すために、いわゆるAIを使ったマッチングなど結構好評をいただいていますが、そういうものを茨城県も一生懸命やっています。
それだけではなくて、そもそも結婚を考えることができる経済力をあらゆる人が、若い方々が得られるような社会にしていかなくてはいけないと思っています。
それが最低賃金の話、あるいは実質賃金の話に戻りますし、そのためには当然企業も含めてさまざまな事業主体が経済力をつけていくことが大前提だと思うので、全て関わっているんですね。
今後の人口減少対策というのは全てやりますということです。
全てが人口減少対策だと思っています。
人口が減る中でどうやって社会を維持するかは、今後考えなければならない。
教師や医師など社会の基盤となるようなインフラをどう守っていくかも、今後、非常に難しくなっていきます。
それに備えて何が重要で何が重要じゃないかということをよく考えて、県としてもさまざまな施策を打っていくことが大事なのではないかと思います。

Q技能実習制度も変わろうとしているが、外国人材の確保や環境作りについてはどう考えているか。

A非常に大事なポイントで、足りなくなる人口をさまざまな形で補っていく上で、一番考えやすいのが外国の方です。
早くから茨城県は外国人との共生社会が来ると考えていたので、例えばいろいろな相談窓口、学校での日本語の教育体制、こういうことをしっかりと外国人向けに強化してきました。
これを一層強化していくということも重要です。
国との関係でいうと、技能実習制度は今後大幅に見直されますが、個人的にはまだまだ不十分だと思っています。
要するに経済力がものすごくよかった時代だったら、ある程度高い賃金を提示して、海外から労働力を引っ張ってくる事ができたと思いますが、いま日本には残念ながらそういう経済力がありません。
そういう中で、単純に金額だけで労働力が来てもらえる時代はもう終わったんだと思います。
そうすると労働条件のさまざまな規制を緩和して、家族も帯同した形で日本でしっかりと根を張って働いていただけるようなことを始めていかないと、日本という国自体が急激な労働減少や人口減少に耐えられないのではないかなと思っています。
私は、政府は施策をもっと抜本的に考えていく必要があるのではないかと思いますし、地方の声もしっかりと政府に届けて行っていきたいと思います。
ただ我々自身もやらなくてはならないことがあって、外国人だからということで排除するのではなくて、いろいろな考え方の方々、性別もそうですし、国籍もそうですし、あるいは、思想もそうなんですが、いろいろな方々を抱擁するような社会を作っていかなくてはならない。
それは、茨城県も力を入れているダイバーシティーにつながると思っています。
これは性的マイノリティーの方々に対するパートナーシップ宣誓制度、これを都道府県レベルで最初に茨城県が実施したことにも象徴されるように、非常に重視しております。
そういう人たち全てに力を発揮していただいて、社会を支えていただかなければならない時代なので、外国人だけではなくて我々自身も受け入れられるような社会のダイバーシティーに対する寛容さを作っていくことが非常に重要ではないかと思います。
例えば企業でも海外の人に日本語を学ばせるだけではなく、自分たちが英語を使ってコミュニケーションできるようにして海外の人が働きやすい職場を作ることも含めて変わっていかなくてはならない。
そういう認識を皆さんと共有していきたいと思っています。

Q東海第二原発について、安全対策工事の不備が見つかり、去年6月から工事が中断しているが、これについての受け止めや日本原子力発電に求めたいことは。

A東海第二発電所の安全対策工事は去年9月に日本原電が防潮堤工事において、鉄筋の曲がりやコンクリートの充てん不備があったという報告を受けておりますが、これをしっかりと彼ら自身の検査の中で発見して、きちっと国に報告して、適切に対応するということであれば、私は特段問題がないのではないかと思います。
きちんとチェック機能が働いているということが言えるのではないかと思っています。
東海第二原発、若干、懸念を意図的に大きく発信する方もいないではないと、少し心配はしていますが、冷静に科学的な根拠に基づいて考えていくということが大変重要ではないかと思っています。
特にいま我々の目の前に迫っている人類共通の課題として気候温暖化という問題があります。
エネルギー価格の上昇で非常に皆さん苦しい生活を強いられていることもありますので、冷静にリスクあるいは安全性を分析しながら判断していくことが大事なのではないかなと思います。
そのための準備をしっかりと行っていくことが行政の務めだと思っています。

Q東海村の議会が国に対して、東海第二原発の早期再稼働を求める意見書を提出することになったが、この受け止めは。

Aそもそもさまざまな自治体が、さまざまな意見表明をするということではあるので、それはそれとして、しっかりと認識はさせていただきますが、あくまでも我々県として行わなくてはいけないことは、安全対策の確認、それから実効性ある避難計画の作成をしっかりとやり遂げて、そのうえで県民はじめ県議会さまざまな方々の意見をお聞きして、今後どう進めるのかを判断していく、これに尽きるので、それ以上でもそれ以下でもないと思ってます。

Qことしの抱負。

A「激変の時代を乗り越えるための飛躍の年にする」というのがことしの抱負です。
去年から既に大きくクローズアップされている人口減少に加えて、国際情勢の大きな変化、さらには気候変動問題…本当に難しい時代に入ってきました。
これからその大きな問題がどんどん我々の生活に影響を与えてくると思います。
しかしそれをしっかりと乗り越えるため、茨城県は持てる潜在能力をしっかりと発揮して、逆に飛躍の年に、飛躍に結びつけたい。
そのスタートがことし、そういう形で頑張っていきたいと思います。