東海第二原発 重大事故で最大17万人避難対象 茨城県が公表

茨城県は、東海村の東海第二原発で重大な事故が起きた場合の放射性物質の拡散シミュレーションを公表し、最大でおよそ17万人が避難する対象になるとしています。
県は、現在進められている、追加の試算結果も踏まえて、避難対策を強化する方針です。

日本原子力発電が再稼働を目指す東海第二原発は首都圏唯一の原発で、30キロ圏内の人口は91万人あまりと、全国で最も多くなっています。
県は、避難対策に役立てようと、避難が必要な範囲が原発30キロまで及ぶ事故を想定した放射性物質の拡散シミュレーションを日本原電に求め28日、結果を公表しました。
日本原電は「工学的には考えにくい」としていますが、シミュレーションは、複数の安全対策設備が一斉に機能を失う事態を想定し、気象条件ごとに11の結果が示されました。
このうち、最も避難の対象が多くなるのは、風が南西方向に吹き続き、雨が降り続いたケースですぐに避難することになる東海村などの6万4000人あまりに加え、1週間以内に避難することになるのがひたちなか市と那珂市で10万5000人あまり、あわせておよそ17万人が対象となります。
県が検証を委託した第三者機関は試算結果について「おおむね妥当」と評価していますが、事故の想定や気象条件しだいで結果は変わりうると指摘していて県は条件を追加して改めて試算することを日本原電に求めています。
県は追加の試算結果も踏まえて、避難にかかる時間や渋滞する道路の把握、それに、避難に必要な車両の台数などを算出して避難対策を強化する方針です。

【どのようなねらいで実施】
今回のシミュレーションは、避難の規模の把握が目的となっているため、原発から30キロに放射性物質が拡散するようあえて条件を設定して行われました。
県の関係者は「30キロ圏内には91万人が住んでいるが、深刻な事故が起きた場合でもこのすべてが避難するわけではないということを確認したかった」と話しています。

【公表の経緯】
県は、去年12月、日本原電から結果を受け取ったあと、第三者機関に委託して算出方法や結果を検証しました。
そして、「おおむね妥当」だと評価されたことや、原発周辺の市町村の了解を得たことを受けて、今回公表しました。

【結果の詳細】
そもそも、原発から5キロ圏内の「PAZ」区域では、重大な事故が起きた場合、対象となる6万4451人が原則、放射性物質が放出される前に、避難することになっています。
これに加え30キロ圏内の「UPZ」区域では線量が1時間あたり20マイクロシーベルトを超えた場合は1週間以内に避難することになっていて、県は、その対象人数を試算しました。
試算は、11の気象条件ごとに出されていて、「UPZ」区域の避難対象が最も多かったのは、南西方面に風が吹き続き雨が降り続いた場合で、ひたちなか市で7万1609人、那珂市で3万3582人の合わせて10万5191人でした。
次いで多かったのは、北方面に風が吹き続いた場合で、日立市で9万2085人、南西方面に風が吹き続いた場合で、水戸市で5万8991人、ひたちなか市で2万3464人の合わせて8万2455人、西方面に風が吹き続き雨が降り続いた場合で、那珂市で3万8078人、ひたちなか市で2万6712人の合わせて6万4790人、北西方面に風が吹き続き雨が降り続いた場合で、常陸大宮市で2万107人、那珂市で1万3000人、常陸太田市で1万341人の合わせて4万3448人、南方面に風が吹き続いた場合で、ひたちなか市で1万9270人、弱い風が吹き続いた場合で、那珂市で9872人、常陸太田市で8217人の合わせて1万8089人、北西方面に風が吹き続いた場合で、常陸太田市で8217人、那珂市で3342人の合わせて1万1559人となっています。
このほか、2つのケースでは「UPZ」区域で避難の対象となる住民はいないと試算されました。

【ベント機能すればUPZ避難なし】
東海第二原発では、福島第一原発の事故の教訓を踏まえ、現在、安全対策工事が行われていて、複数の電源や注水ポンプの分散設置、それに、事故の際に、放射性物質を取り除いて容器内の気体を放出できる「フィルター付きベント」という装置の設置が進められています。
今回、「フィルター付きベント」などの設備が機能した場合の別のシミュレーションも同時に公表されましたが、その場合は「UPZ」区域では避難は必要ないという結果になりました。
一方、今回のシミュレーションは常設の電源や注水ポンプ、それに「フィルター付きベント」などの複数の安全対策設備が一斉に機能を失う事態を想定しています。
これについて日本原電は、「工学的に考えにくい」としているほか、第三者機関の検証では「このような事態が想定されるのは、いん石の落下やミサイルなどが考えられ、可能性を否定することはできないが、敷地内の設備が一斉に機能を喪失する事態はおよそ考えにくい」としています。

【追加試算の動きも】
一方、第三者機関では「説明性の向上のため、複数の事故シナリオについて追加評価を行うなど補足しておくことが望ましい」などとして事故の想定や気象条件しだいで結果は変わりうると指摘しています。
また、公表の過程で一部の周辺自治体からも条件次第で結果が変わるため想定が不十分だという声も上がっていました。
このため県は、日本原電に対し、今回とは別の事故が起こる想定でも試算を行うほか大気中の物質の拡散しやすさを示し放射性物質拡散のシミュレーションを行う際、重要な条件として活用されることが多い「大気安定度」というデータも反映させることなどを求めています。

【避難対策にどういかす?課題は】
県は今回公表されたシミュレーションと追加試算の結果も踏まえて、避難対策を強化する方針です。
県はすでに今回の結果を活用して、避難にかかる時間や渋滞する道路を把握するための調査を始めています。
また、避難にあたって、県は原則自家用車の利用を呼びかけ、高齢者など自家用車で避難できない人のためにはバスなどを用意して避難を支援することにしています。
今回、対象となる住民の規模感が分かったことで、必要な車両やドライバーの算出・確保も進めることにしています。
一方、今回はあくまでシミュレーションで実際に事故が起きた場合は避難対象となっていなくても、周辺で避難しようという人が出て想定以上の渋滞が発生するおそれもあります。
県内では原発が稼働しているかどうかに関わらず自治体に作成が求められる「広域避難計画」の策定も進んでいません。
今回のシミュレーションを議論のきっかけとして実効性ある避難計画の策定につなげられるかが当面の焦点です。

【PAZ区域】
東海村の全域、日立市・ひたちなか市・那珂市の一部

【UPZ区域】
水戸市・茨城町・大洗町の全域、日立市・ひたちなか市・那珂市・常陸太田市・高萩市・笠間市・常陸大宮市・鉾田市・城里町・大子町の一部

【茨城県 大井川知事】
東海村の東海第二原発で重大な事故が起きた場合の放射性物質の拡散シミュレーションについて、大井川知事は、「国の新規制基準に基づいた安全対策では、このような事故はほぼ想定できない。過酷な事故を意図的に想定し最大でどのくらいの避難の準備が必要かということを明らかにしたものだ」と述べました。
また、避難の対象になるのが最大でおよそ17万人になると試算されたことについて、「非常に大きい数字だ」と述べ、その上で、「シミュレーションによってどういう準備をしておくのか規模感がはっきりするのでそれに基づいて避難計画の実効性に磨きをかけることが可能になると思う」として今回のシミュレーションを活用して避難計画の実効性を高めていく考えを示しました。

【水戸市 高橋市長】
水戸市の高橋靖市長はコメントを発表し、「市民の皆さまに誤解してもらいたくないのは今回示された図は決してハザードマップではないということ。『色づけされた地域のリスクが他地域に比べて特段に高いことを示すものではない』ということは県とも連携し、市民にしっかりと伝えていかなければならない」としています。
その上で、「気象条件の抽出年度が変われば水戸市でも30キロ付近まで一時移転の対象となることは十分あり得ると認識している。今回の結果で、避難対象地域が市内の一部地域だからといってその地域だけの避難先を確保すればよいとは全く考えない。市内の全域が一時移転をする可能性があるという認識のもとこれまで通り全住民分の避難先をしっかり確保し、全地域の避難計画を策定してまいりたい」として、市内全域の避難計画策定を目指す考えを強調しました。