記録的大雨 被災3市で残業 月100時間超の職員が計15人

ことし9月の記録的な大雨で大きな被害の出た茨城県内の3つの自治体で、1か月の残業時間が「過労死ライン」とされる100時間を超えた職員があわせて15人いたことがわかりました。
一方、ほかの自治体からの応援職員の受け入れは限定的で、専門家は持続可能な形で復旧支援を行うためにも災害時は応援を積極的に活用するべきだと指摘しています。

NHKはことし9月の記録的な大雨で大きな被害を受けた日立市、北茨城市、高萩市の3つの自治体で災害対応にあたった職員の勤務実態を調べました。
9月の残業時間が「過労死ライン」とされる1か月100時間を超えた職員は日立市は7人、北茨城市は5人、高萩市は3人、合わせて15人で、いずれも「ゼロ」だった前の年の同じ月を上回りました。
3つの市の条例では、災害対応などの場合、100時間を超える残業を認めていて、それぞれの自治体では、「り災証明書」関連や、災害ごみ回収などで業務が増えたためだとしています。
こうした中、日立市には救助活動のため自衛隊が入ったり被害調査や連絡調整などのため国や県から応援が来たりしていましたが、り災証明書関連など住民支援については3つの市のいずれもほかの自治体から応援が入っておらず被災地への応援は限定的でした。
3つの市には、ほかの自治体から応援派遣の打診があったものの、災害の規模感が分からなかったことや、受け入れた場合でも具体的な業務を説明する負担などを考慮して、受け入れませんでした。
自治体の災害対応に詳しい早稲田大学の稲継裕昭教授は「局地的な災害の場合は応援をお願いすることが基本だ。災害だからと頑張りすぎず、ほかの自治体がせっかく手を差し伸べてくれるのなら、頼っていい。職員が精神的にも普通の状態でいられることが、住民サービスの向上という自治体の本来の目的に資することになる」と指摘しています。

【自治体職員の勤務ルールと業務】
地方自治体の職員の勤務時間については、それぞれ市の条例で定められています。
日立市、北茨城市、高萩市ではいずれも、1か月の残業時間の上限を100時間と定めていますが、大規模災害への対処など緊急を要する「特例業務」は、これを超えた時間外勤務が認められています。
その場合、時間外勤務は必要最小限のものとし、職員の健康確保に最大限の配慮をするとともに、要因の分析や検証などを行わなければならないとしています。
また、今回の災害で、3つの市で、どのような対応にあたった職員の残業が100時間を超えていたかを見ると、災害対策本部の事務や全体調整の担当が日立市、北茨城市、高萩市であわせて6人河川や道路の復旧などの担当が日立市、高萩市で3人り災証明書に必要な調査などの担当が北茨城市で2人、災害ごみの回収などの担当が日立市、高萩市で2人、浸水した下水処理場の対応にあたった担当が日立市で2人となっています。
日立市は、「市では難しいことを、国や県の応援のおかげで素早く対応できたのはありがたかった。全庁的に超過勤務が多くなってしまったので、夏休みを取る期間を延ばしたりカウンセリング対応などで健康にも配慮している」と話しています。
北茨城市は、「り災証明書に必要な被害調査は、経験者を別の課から応援で呼ぶなどしてプッシュ型ですばやく対応した。災害初期は全体像が把握できず応援職員が必要かどうか判断するのが難しかった」と話しています。
高萩市では「相談や調整にあたる管理職や全体をとりまとめる係など、替えのきかない役割の職員の残業が長くなる傾向があった」と話しています。

【高萩市長「全庁で対応 今後の課題も」】
高萩市の大部勝規市長は、特に時間のかかる住宅の被害調査を行うにあたり、全庁態勢で臨んだことで、担当課に業務が集中することを防げたといいます。
大部市長は、「職員が300人近くいるので被災した職員もかなりいた。まずは誰が応援できるかリストを作ってシフトを組み、全庁態勢とすることで被害調査の優先順位をつけることができた。その結果、専門性が求められる『床上浸水』の調査に担当の税務課が集中できた」と振り返りました。
一方、今後の課題として、「職員から今回は『自分たちでできる』という声もあったが、市役所に寝泊まりしていたり、9月の残業が100時間を超えた課長も出たことから、今後は応援も必要だと思うので検証していきたい。全てが結果オーライで『応援がなくてもよかった』ではなくて、必要であれば応援を頂きたい。再び線状降水帯が発生することに備えて、このレベルならこういう応援を頂きたいとか、マニュアルもしっかり作って対応していきたい」と話していました。

【「受援力」高める必要】
公務災害の認定にあたる「地方公務員災害補償基金」によりますと、災害対応による一定の基準以上の時間外勤務で、精神や脳心臓の疾患を発症し、公務災害として認定するケースは毎年のようにあり、中には、自殺や死亡を認めた事例もあるということです。
こうした事態を回避し、住民支援を適切に続けるためにも応援を受け入れる「受援力」を高める必要があると専門家は指摘します。
自治体の災害対応に詳しい早稲田大学の稲継裕昭教授は、「災害の初期段階で、応援職員が必要かどうか判断がつかないのは分かるが、大変だと思ったら途中からでも気を遣わずに、『お互い様』だと思って派遣を頼んでいい。災害の時こそ公務員が頑張るんだというのは正しいが職員の人数が減る中で業務が増えていて、労働環境やメンタルの平安を保つための配慮が自治体にも求められる。災害が起きたあとにオーバーワークで倒れる職員が出てしまうと、結局その損失は住民サービスに跳ね返ってしまうので、自分たちで頑張りすぎずに、せっかく手を差し伸べてくれる自治体があるなら頼るべきだ」と話していました。
また、応援を受け入れる際の負担を減らすために必要なこととして「ノウハウが個人の職人技になっていると引き継げないので、マニュアル化して誰が読んでもできる、見れば分かる状態にしておくと応援を受け入れる側は『この部分をお願いします』とすぐ頼める。そのためにも応援職員にやってもらう業務と地元の職員しかできないものと仕分けておくことが重要だ」と話していました。