茨城県内 賃金引き上げ続くもさらなる賃上げに悩む声も

茨城県内では、これまでの春闘や最低賃金の見直しで賃金の引き上げが続いていますが、公的な経営相談所にはさらなる賃上げに悩む声も相次いでいます。

連合茨城のまとめでは、ことしの春闘で県内74組合が妥結した賃金の引き上げ額の平均は8322円、賃上げ率は3.11%で今の方法で集計をはじめた2014年以降、金額、率ともに最高でした。
また、今月から適用されている最低賃金は42円引き上げられ953円で、引き上げ額は時給で示されるようになった2002年度以降、最大です。
一方、賃金の伸びは物価の上昇に追いついていません。
茨城県によりますと、水戸市の消費者物価指数は天候による変動が大きい生鮮食品を除いた指数が、先月まで25か月連続で前の年の同じ月を上回り、物価の上昇が続いています。
そして、県内の従業員30人以上の事業所を対象に算定した物価の変動分を反映した「実質賃金」の指数は、ことし7月まで18か月連続で前の年の同じ月を下回る状況が続いていて、持続的な賃上げが求められています。
こうした中、国が全国に設置している中小企業向けの無料経営相談所「よろず支援拠点」の県内の窓口には、賃上げに関する相談が相次いでいます。
原材料の高騰に対応したり、人件費を引き上げたりするための価格転嫁の方法や、賃上げを支援する政府の支援策に関する悩みが多いということです。
よろず支援拠点の小林清二コーディネーターは「中小零細企業は元請けなどに価格転嫁をお願いしてもなかなか受け入れられない。原材料高による値上げは取引先が理解を示しても、人件費の上昇までは先方に提示することが困難なことも多い。また、行政の支援制度を知らないという人も多く、制度をもう少し周知していく必要がある」と話していました。
【食品加工メーカーでは】
茨城県つくば市の食品加工メーカーでは、ことしまで2年連続で一部の社員やパートの基本給や時給を上げていますが、原材料価格の上昇などで利益が圧迫され、継続的な賃金の引き上げは不透明になっています。
つくば市にある食品加工メーカーでは、地元のブランド豚の「常陸の輝き」や乳製品を県内の業者から仕入れて、ソーセージやヨーグルトなどに加工して自社や百貨店などで販売しています。
この会社では物価高が進む中、従業員に報いるため2年連続で一部の社員やパートの基本給や時給を5%から10%ほど上げてきました。
一方、豚を育てる飼料や燃料の価格上昇などで、仕入れにかかる費用は去年の同じ時期と比べて20%ほど上がり、利益を圧迫しています。
この会社では去年春に商品の値上げを行いましたが、何度も値上げをすれば、顧客が離れてしまうのではないかと懸念し、さらなる価格転嫁には踏み切れないということです。
会社では、製造工程の一部を見直して光熱費の削減などに取り組んでいるほか、新しい顧客の獲得にも力を入れていますが現段階では持続的な賃上げは不透明だとしています。
「筑波ハム」の齋木一素社長は「物価が上がるなか、給料が横ばいなのは従業員の生活の面でもかなり厳しいというのは認識している。努力してコストカットをして出た利益をなるべく従業員にも還元していきたい」と話していました。

賃上げに関連する行政の支援制度です。
【価格転嫁について】
公正取引委員会は、下請け法の運用基準の中で労務費や原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取り引きは、法律で禁止する「買いたたき」に該当するおそれがあるとしています。
また、経済産業省では下請け法に関する基礎知識や取引先との価格交渉の進め方などが無料で学べる「適正取引支援サイト」を運営しています。
この中では取引先と交渉するうえで、必要な情報をどう集めるかや交渉戦術なども学ぶことができます。
「よろず支援拠点」にも「価格転嫁サポート窓口」がことし7月、設置されています。
【補助金など支援制度】
企業の賃上げを後押しするため、国はさまざまな支援制度を用意しています。
このうち、よく活用されている制度の1つが「小規模事業者持続化補助金」です。
賃金の引き上げのために販路開拓などの取り組みを行う経費の一部を補助する制度で、補助率は原則3分の2で最大250万円が補助されます。
このほか、「業務改善助成金」という制度は事業所内の最低賃金を引き上げたうえで、生産性の向上に向けた設備投資などを行った場合費用を補助し、時給の引き上げ額に応じて金額が変わりますが最大で600万円が助成金として支給されます。