復興への願いと不信感 処理水放出に避難男性の複雑な思い

茨城県は福島県から避難する人が、2023年5月時点で2465人と全国の都道府県で最も多くなっています。

こうしたなか政府は東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水を薄めて海に放出することについて「廃炉を着実に進め、福島の復興を進めていくため先送りできない課題」として、放出を決めました。

処理水の放出について、避難が続く人はどう受け止めているのか。
ふるさとの復興を願う男性の思いを取材しました。

(水戸放送局記者 小野田明)

【できれば元の場所にもどって住みたい】

「薄めたからいいというものではないんですよ。風評被害をどうやって乗り切るか、そういったことが大事なんじゃないですか」

こう話すのは、北茨城市に住む齊藤宗一さん(74)。福島第一原発が立地する双葉町出身で、避難先を転々としたあと2014年から北茨城市で暮らしています。

震災以降、双葉町の自宅は住めなくなりましたが、先祖代々受け継いできた自宅や土地を誇りに思ってきました。

しかし、国は除染で出た土などを保管する中間貯蔵施設を整備するため用地の確保を進め、双葉町の住民などに協力を要請しました。齊藤さんは苦渋の思いで国の利用を認めましたが、いつかはふるさとに戻りたいと土地は国に売却せず、所有権を残したまま、国が土地を利用できるよう「地上権」を設定し、事実上、貸し出しています。

(齊藤宗一さん)
「息子・孫の順番に家を継いでいくわけだったけど。できれば元の場所に戻って住みたいなって思いますけどね。果たしてそれがいつ叶うようになるのかね」

【願う復興と国や東京電力に対する不信感】

たまり続ける処理水。
齊藤さんはこの問題を解決して復興を前に進めて欲しいと考えています。

一方で、原発の安全性を強調してきた国や東京電力の対応に不信感もあり、処理水の放出も本当に安全に実行されるのか、複雑な思いを抱いています。

(齊藤宗一さん)
「言い訳ばかりの東京電力。私からみたらそこに信用はないですよ。いくら人が変わってもね。海に流してスムーズに片付くのかなと、そういう心配があります。どこまで大丈夫なのかと」

処理水を薄めて海に流す計画について政府は「福島第一原発の廃炉を進めるにあたって避けて通れない課題」だとしていますが、廃炉で最大の難関とされる「核燃料デブリ」をどのように取り出すのか、具体的な道筋は見えないままです。

齊藤さんは国や東京電力に対しては避難者の思いを受け止めて、処理水の放出、そして復興に向けたプロセスを進めて欲しいと強調しています。

(齊藤宗一さん)
「毎日流すとすれば何時間おきに測るとか、そういった検査をきちっとして、本当に大丈夫ということを確認してもらいたいと思います。まず東電も国もきちっとやってもらいたいなと思います。みんな同じ思いだと思うけど、やってみたらダメだったではなくて、きっちと的確に進めてもらいたいと思います」

【処理水放出 復興への道筋は】

処理水のタンクを増やさずにすめば、原発敷地内のスペースを廃炉作業のために活用できるというのが政府と東京電力の考えで、そのうちの1つが廃炉で最大の難関とされる「核燃料デブリ」の一時保管施設です。

推定でおよそ880トンたまっている核燃料デブリは、2023年度後半に数グラム程度の試験的な取り出しが計画されていますが、本格的な取り出し方法や時期など、具体的な見通しは立っていません。

処理水の放出について複雑な思いを抱いている人や、風評を懸念する漁業者の中にも、廃炉・復興のためと苦渋の思いで受け入れようとしている人もいます。

廃炉作業は最長40年かかるとされていますが、廃炉と復興をどう果たすのかについても政府と東京電力は責任をもって示していくことが求められています。