広がれ!茨城県の日本酒 若手蔵元支援プロジェクト

酒蔵の数は35か所。実は茨城県は「関東屈指の酒どころ」なんです。豊かな水とおいしいコメで品質のよい日本酒を造り続けているのですが、PR不足が課題で出荷量は伸び悩んでいます。そこで茨城県は、茨城の日本酒を日本中、さらには世界に発信していこうと動き出しています。

(取材 NHK水戸放送局 清水嘉寛記者)

【なんと100種類 地酒サーバーでお出迎え】
JR水戸駅の改札を出ると、目に入るのが「茨城地酒」の看板です。取りそろえられた日本酒は、およそ100種類。1000円で3種類の日本酒を選ぶことができ、来店客はサーバーからおちょこに注いでいきます。

 (来店した女性)
「たくさんの種類の中から好きなものを選んで、分からなければ店員さんが教えてくれる。お酒はビール派だったんですけど、こんなお酒があるんだなって感動しました」

このバーは、茨城県が日本酒の魅力を発信しようと設置したものです。多いときには1日500人ほどが訪れています。

(いばらき地酒バー水戸 店長 大手大助さん)
「茨城の日本酒にはこれだけの種類があって、質の高いものがありますが、県外の皆さんには認知されていないと感じます。地酒サーバーで飲んで『こんなに茨城のお酒っておいしいんだ』と驚いて、感動してくれるお客さんがたくさんいます」

【求む!斬新なビジネスプラン】
茨城の日本酒のブランド力をもっと高めていきたい。そこで茨城県が始めたのが「日本酒若手蔵元活性化プロジェクト」です。これまで日本酒を飲んでいなかった人たちにもマーケットが広がるような斬新なビジネスプランを、若手の蔵元から募集。4件が選考を勝ち抜きました。

選ばれた蔵元たちは、外部のアドバイザーの意見も取り入れながら、味わいはもちろん、デザインや、どんな時に飲んでほしいかというコンセプトなどにも磨きをかけていきました。

【従来のイメージからの脱却を】
選ばれた4件のうちの1つが、大洗町にある酒蔵の8代目蔵元、坂本直彦さん(35)の提案でした。慶応元年から150年余り続く歴史ある酒蔵ですが、販路の拡大に苦戦していたといいます。

(月の井酒造店 坂本直彦さん)
「伝統とか職人技に重きを置いていると、どうしても外に伝える能力が乏しくなってしまうんです」

坂本さんが提案し、製品化されたのは、スパークリング日本酒です。茨城県産の有機栽培米や伝統の製法にこだわりながらも、従来のイメージにとらわれない日本酒を造ってみようと考えました。

製品の発表会では、世界的なソムリエの田崎真也さんもテイスティング。「最初に口に含んだ瞬間、豊かな印象を感じた。あんこう鍋のなどと非常に相性がよい」と高い評価を受けました。

プロジェクトから生まれたほかの3件の日本酒も、ユニークなものばかりです。

常陸太田市の酒蔵は、竜神峡に伝わる龍の伝説をコンセプトにした日本酒を造りました。ラベルはドラゴンをデザインし、台湾などへの輸出を意識しています。田崎さんは「お米以外の香りが非常にバランスよく調和し、酸も非常にまろやかで柔らかな印象。鰻の白焼きなどと相性がよい」とコメントしました。

結城市の酒蔵が造ったのは、サイクリング好きに向けた日本酒です。ラベルのデザインは自転車好きで知られるアニメーターが手がけました。蔵元は「自転車に乗ったあとに飲んで楽しかった一日を振り返ってほしいという思いで造った」と話し、田崎さんは「マスカットのような香りで、サイクリング後のホッとした瞬間に、イチゴ大福のようなものと一緒に楽しみたい」とコメントしています。

また、水戸市の酒蔵は、茨城県産のスギとヒノキの間伐材を漬けて香りを楽しむという「体験型」の日本酒を造りました。漬ける時間によって自分で香りを調節でき、田崎さんは「すばらしいアイデアで、ベーコンなどと非常に相性がいい」と評価していました。

【県外へ、世界へ発信を】
県のプロジェクトで新しい酒造りに挑戦した坂本さん。感じたのは、茨城の日本酒の底力でした。

(月の井酒造店 坂本直彦さん)
「茨城の酒の魅力は、水や米といった資源が豊かで、35の酒蔵それぞれが個性をもった酒造りをしているところです。お酒とともに地域活性化を、県内にとどまらず県外、さらには世界に発信していきたい」

県のプロジェクトで製品化された4種類の日本酒は、早いものでは今月から、水戸駅の地酒バーや県内外の酒の販売店などで販売されます。