水戸京成百貨店 不祥事はなぜ起きたのか

茨城県水戸市にある水戸京成百貨店が、国の「雇用調整助成金」などあわせて3億円余りを不正に受給していた問題。県内唯一の百貨店で起きた不祥事は、警察の強制捜査が行われる事態へと発展しました。
なぜ不祥事が起きたのか、経緯や背景をまとめました。

(NHK水戸放送局 安永龍平記者)

【「雇用調整助成金」とは】
水戸京成百貨店が不正に受給した国の雇用調整助成金は、新型コロナウイルスで打撃を受けた事業者を支援するものです。

従業員の休業手当や賃金を国が一部助成する制度で、助成を受けるには売り上げや従業員の休業状況などの資料を労働局、もしくはハローワークに提出する必要があります。

百貨店の内部調査では、この休業状況を偽って、国の雇用調整助成金など3億600万円余りを不正に受給していたことが明らかになりました。

【発覚の経緯は】
不正受給が分かったきっかけは、去年11月、茨城労働局が行った査察でした。退職した社員から労働局に連絡があったといいます。

その後の百貨店側の調査で勤務データの改ざんが明らかになり、百貨店はことし1月、会見を開いて公表しました。

百貨店によると、休業と偽って申請した日数はおよそ2万4000日に上るということです。

【誰が主導した?】
百貨店側の内部調査では、元総務部長が勤務データの改ざんを指示したとされています。

ただ、百貨店によりますと、調査チームの聞き取りに対して元総務部長は「当時の社長から指示された」と話しているということです。

一方で、当時の社長は指示を否定しているうえ、証拠も見つからないとして、調査では、当時の社長の関与はなかったと結論づけられているということです。

不正受給を主導したのは誰なのか、今後の捜査が待たれるところです。

【なぜ不祥事は起きたのか】
この不祥事で、茨城労働局は2月20日付けで、百貨店への助成金の支給決定を取り消し、返還命令を出しました。

百貨店は、ペナルティーや延滞金も加えて13億4000万円余りを2月末までに返還したということです。

経営への打撃に加えて百貨店のイメージダウンも免れないこのような不祥事を、なぜ起こしたのか。

背景にあるのは、新型コロナウイルスによる売り上げの減少です。

百貨店によりますと、新型コロナの感染が拡大し始めた2020年3月から、売り上げは急速に減少しました。

4月中旬には緊急事態宣言が出されて、およそ1か月にわたってほぼ全館を休業する対応をとったこともあり、4月の売り上げは前の年の同じ月の4割ほどにまで落ち込みました。

その後も、8月には県独自の非常事態宣言で、入場者数を通常の半分に制限することが求められるなど、苦しい状況が続きました。

勤務データの改ざんを指示したとされる元総務部長は、百貨店の調査に対して「赤字になれば雇用が守れず、会社がもたないという思いが強かった」と話していたということです。

【相次ぐ厳しい批判】
百貨店の不祥事に、地域からは厳しい批判とともに、信頼回復への努力を求める声が相次いでいます。

水戸市はこの夏オープンする新しい市民会館と水戸芸術館、それに百貨店の3つの施設を中心市街地のにぎわいづくりの拠点と位置づけ、周辺の整備を進めてきました。

それだけに高橋靖市長は百貨店に対して「言語道断で大変遺憾だ」と失望感を示すとともに、「単なる商売ではなく市街地の活性化や良質な消費活動を支えているという責任意識を持ち、客との信頼関係を回復させる努力をしてほしい」と要望しました。 

【信頼 どう回復するか】
今回の不祥事では、複数の従業員から「休業日が実際より多い」といった指摘があったにもかかわらず、内部通報の制度が機能していなかったことが明らかになっています。

このため百貨店は、コンプライアンス強化のため新たに内部監査部を設け、社内の不正を監視するほか役職員への研修などを行っていくことにしています。

この問題を取材していて感じたのは、百貨店が地域の人たちにとってシンボルであるということと、それゆえの落胆でした。

百貨店には厳しい声を真摯に受け止め、信頼回復に向けた取り組みを着実に進めてほしいと思います。