唯一の書店閉店へ 地域に“残したもの” 大田

石見銀山を舞台にした千早茜さんの歴史小説「しろがねの葉」が直木賞を受賞した際、驚異的な売り上げを記録するなど話題になった大田市唯一の書店が、経営の悪化により今月(3月)末に閉店することになりました。

電子書籍などの普及に伴って、書店の数は全国的に減り続けていて、日本出版インフラセンターのまとめによりますと、島根県では、2013年には104あった店舗数は、去年(2023年)には74店舗にまで減少しました。
こうしたなか、大田市中心部でおよそ20年前にオープンした大型書店では、売り上げの減少で経営が悪化し、今年度いっぱいでの閉店を決めました。
閉店まで残り1週間になった24日、店内ではすでに空いた棚が目立ち、スタッフが掲示物を剥がすなど片づけ作業に追われていました。
一方で、家族連れなど閉店を惜しむ利用客が絶えず訪れていて、“書店にはネット通販にはない魅力がある”といった声が聞かれました。
大田市の64歳の男性は、「ネットでは触れる機会がないような本に偶然巡り会えるところが書店のいいところ」と話していました。
また、子どもと一緒に絵本を探していた美郷町の36歳の女性は、「書店では絵本の内容を子どもに見せて反応を確認できる。今後、隣の市の書店に遠出しないといけないのは不便だ」と話していました。
また、書店は本が持つ文化や価値を地域に発信する拠点としても重要な存在でした。
その中心を担っていたのが、7年間勤めてきた書店員の島田優紀さんです。
地元・石見銀山を舞台にした「しろがねの葉」が去年1月に直木賞を受賞したあと、作者の千早さんの大ファンでもある島田さんは、SNSを通じて作品の魅力を投稿し、記録的な売り上げに貢献しました。
こうしたことを受け、去年4月には、千早さんが大田市を訪れて店舗を訪問したほか、地域の人などおよそ700人を集めた大規模な講演会も実現しました。
直木賞受賞から1年余りがたった今も、書店の入り口には特設コーナーが設けられていて、24日時点で販売数は1106冊にのぼるということです。
島田さんは、「『しろがねの葉』を読んだ人が圧倒的に多くなった。読んだ人どうしで感想を言い合っていると耳にしたことがあるし、店に来たお客様が店員に感想を伝えてくれたこともあった」と地域で巻き起こった“しろがねの葉フィーバー”を振り返りました。
閉店の知らせを聞きつけ、今月21日には千早さんが再び書店を訪れて、直接、感謝を伝えたということです。
千早さんから贈られた色紙には、「『しろがねの葉』をたくさんひろめていただき、本当にありがとうございました。心の中でまた来ます!」と記してありました。
島田さんは、「お客様に楽しんでもらえる売り場を目指していた。大田市唯一の書店であり、何より、私自身、この店が大好きだったので、続けるために努力してきたが、それがかなわず悔しい。ただ本を買ったということだけではなく、“この書店で買った”という思い出が皆の心に残ってくれるといい」と話していました。