密着! 苦境に陥る地方スーパー “逆転”への挑戦

「236」。
この数字、実は、去年4月からの1年間で倒産した食品スーパーを含む飲食料品の小売業者の件数です。
前の年と比べて60件、率にして3割余り増えています。
記録的な物価高も重なり、苦境に陥る地方スーパーは全国的に相次いでいます。
それでも、何とか巻き返しを図ろうと大胆なリニューアルに踏み切った現場が松江市にあります。
その挑戦を追いました。

【まるで商店街?珍リニューアル!】。
5月24日、リニューアルオープンした店に取材に行くと、店内はなんだか、一風変わった姿に。
野菜売り場は「山陰だんだん農園」。
精肉売り場は「ふくふくミート」など、各コーナーにはこだわりの店名が並び、対面のカウンターも設置。
スーパーというよりはまるで、商店街のようです。
内装やコンセプトをガラッと変える思い切ったリニューアル。
店の代表取締役・岸本孝弘さんは、「新しく生まれ変わろうと思い、取り組んだ」となみなみならぬ決意を示していました。

【従来の対策では限界…改革に踏み切った事情】。
大胆な改革に踏み切った背景には、“2つの苦境”があります。
1つ目が“競争の激化”です。
店がオープンしたのは21年前。
以来多くの客が訪れ、長年、地域の食を支える存在でしたが、近年は、周辺に“低価格”などを売りにした大型スーパーをはじめ、ライバルが続々と進出。
売り上げは減少に転じ、去年は前の年より1割ほど下がりました。
そして2つ目が、ウクライナ侵攻などによる“エネルギー価格高騰”の影響です。
リニューアルに先立って岸本さんは、「電気代が非常に上がっていて、年間で比べるとおよそ1000万円上がっている。非常に厳しく、なんとか構造を変えていかないといけない」と頭を抱えていました。

【社運をかけたリニューアル2つの目玉】。
“これまでの対策では限界がある”と、店は再起をかけて、総額5000万円をつぎ込み、今回のリニューアルを決断。
NHKでは、その準備の様子を密着取材しました。
見えてきた改革の柱は2つ。
1つ目が、“スーパーの常識を覆すコストカット”です。
スーパーといえば、フタがないタイプの冷凍庫がおなじみですが、店全体の電気代の大半を占めるといいます。
そこで、11台から2台まで、一気に減らすことを決めました。
その分、冷凍商品の品ぞろえを見直し、消費電力をおさえる新たな冷凍庫に入れ替えるなどして“電気代3割削減”を目指します。
2つ目の柱が“地域密着”です。
店作りは、地元の金融関係者や商工会、デザイナーなど、さまざまな関係者を巻き込んで実施。
1店舗しかない地方スーパーの強みをいかした『ネオ商店街』という新しいコンセプトを打ち出しました。
惣菜の新メニューの試食会をのぞいてみると、関係者からは、“住民目線”の意見が飛び交っていました。
飲食関係者が、使う肉の部位や味付けなど、細かい点までアドバイスをするなど、それぞれが知恵を出し合い、議論を重ねました。

【リニューアル当日!特徴は?客の反応は?】。
そして迎えたリニューアルの日。
店の外には、オープン前から50人を超える客の行列が。
午前10時の開店とともに一斉に入店し、店内は大にぎわいとなりました。
“地域密着”をテーマに掲げた店内には、地元産を前面にアピールした生鮮食品がずらりと並び、試食を重ねた手作りの惣菜も大幅に増やしたといいます。
さらにカウンターでは、従業員が客に商品をおすすめするシーンもみられました。
時には客の相談にも乗る“対話式”の販売スタイルを取り入れたといいます。
利用客に話を聞いてみると、「地元のものを買おうと思ってこの店にきた。活気があっていい」とか「子どもも喜ぶ内装だし、新鮮なものが並んでいるので助かる」などといった好意的な意見が多く聞かれました。
「白銀屋商店」の代表取締役・岸本孝弘さんは、「不安はあるが、期待してもらっているので便利さとおいしさを追求し、頑張っていきたい」と意気込んでいました。

【取材を終えて〜“安さ”ではない魅力〜】。
記録的な物価高が続く昨今、“安さ”に目がいきがちですが、「地元産」や「手作り」、「客との対話」など、自身の強みをいかしたリニューアルには、ローカル企業が今の時代を生き残っていくためのヒントが詰まっていると感じました。
電気料金などは今後もさらなる値上げが予想されますが、今回のリニューアルが地方スーパーの“逆転物語”の始まりになるのか、注目したいと思います。