スサマジ躍進のキーマン バンダイナムコ・宮河恭夫社長に聞く
昨シーズン、初めてのチャンピオンシップ出場を達成し、今シーズンも好調を続けている島根スサノオマジック。
その躍進を支えているのが、4年前、チームの経営権を獲得したバンダイナムコエンターテインメントのトップ、宮河恭夫社長です。
東京の大手ゲームメーカーが、なぜ、異業種への参入の地に島根を選んだのか。
そして、目指す先にあるもの。
単独インタビューでたっぷりうかがいました。
バンダイナムコエンターテインメントの宮河恭夫社長は、人気アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズを斬新な手法で売り出し、数多くのゲームや音楽ライブを手がけてきた、“エンタメ業界のカリスマ”とも呼ばれる人物です。
4年前、松江市を拠点とする島根スサノオマジックの経営権を獲得してプロスポーツの世界に参入し、チームや試合会場の演出などの改革を進めています。
まずはじめに、なぜ、島根のチームを選んだかについて質問すると、「正直、ビジネスついてはそこまで考えていない」と答えたうえで、「世界を相手にゲームを何千万本と売るような、大きな市場に出ていく仕事はすでにやっているので、それとは違うアプローチに取り組むことがとても重要な気がした。島根スサノオマジックは、地元やバスケットが好きな人たちが、“島根を盛り上げようよ”という理念でやっている。そこに共感して、ここだったら一緒にやりたいと思った」と参入の経緯を語りました。
参入以来、宮河社長がモットーとして掲げているのが、あらゆる手を尽くして“ファンを満足させること”です。
ホームゲームでは、炎とレーザーを組み合わせた音楽ライブさながらの演出を新たに導入するなど、エンタメで培ったノウハウを最大限に生かしています。
宮河社長は、時間が許すかぎり東京から足を運び、演出面のチェックを続けていて、「徐々にレベルは上がってきているが、まだまだだ。少しずつ手直しをしながらもっとお客さんに楽しんでもらえるよう変えていき、“夢の世界”に連れていけるようにしたい」と語るなど、今後も模索を続ける方針です。
プロスポーツの世界に参入するまで、個人的には「スポーツにまったく興味が無かった」という宮河社長ですが、今は、スポーツが秘める可能性を改めて強く感じているといいます。
象徴的だと振り返ったのが、今シーズン、島根スサノオマジックが強豪・千葉ジェッツと対戦した大一番です。
同点で迎えた試合終了間際、エースのペリン・ビュフォード選手がシュートをねじ込み、劇的な逆転勝利を収めました。
宮河社長は、この試合を振り返り、「よくスポーツは“シナリオのない世界”だと聞いていて、“何を言っているんだ”って正直思っていた。千葉ジェッツ戦の最後の逆転シュートはめちゃくちゃベタだけど、あれが本当にシナリオなしでできるということにびっくりしたし、あれが本当の感動なんだと思った。我々はずっと、シナリオを作ってお客さんと一緒に動く仕事をしていたから、全然違う世界で、すごく面白いと感じた」と語りました。
宮河社長率いるバンダイナムコエンターテインメントが経営権を獲得して以来、観客動員数はコロナ禍でも着実に伸び続け、昨シーズンは、1試合平均でおよそ1800人と、前のシーズンより50%近くアップしました。
また、チームも躍進し、宮河社長がみずから掲げた「参入から3年でチャンピオンシップ進出」という高い目標を昨シーズンに達成しました。
この躍進について宮河社長は、「“3年以内にチャンピオンシップに行きます”ということだけは明言していた。僕は必ず、何かやるときには社員に対して、“目標をこうする”と言っている。目標をどこに置くかで人間はそこに行けるかどうかが決まってしまうから」と語り、決して偶然ではなく、狙いどおりに進んでいると語ります。
チーム、そして島根に新しい風を吹き込んだ宮河社長に、「今、見据えている次のステージは何か」と聞くと、「島根スサノオマジックが、今後、もっと生活の中に入っていくこと」だと答えました。
宮河社長は、「たとえば、ガンダムやドラゴンボールは生活に密着している人たちがたくさんいる。机の上にガンプラがあり、家に帰ればドラゴンボールのフィギュアがあり、ゲームをやり、みたいな。島根スサノオマジックの試合をどう生活に結びつけて広げていくか。それが一番重要だ」と語りました。
そして、「島根スサノオマジックを島根、山陰地方にとってどんな存在にしたいか」という質問をぶつけると、「元気のきっかけになってほしいというのが一番の願い。日本全体の問題でもあるが、山陰地方は人口減少が課題になっている。島根スサノオマジックを通じて、どれだけ島根を好きになってもらえるか。それが大きな目標で、それがなかったらこういうビジネスをやる意味は無いと思うほど重要なことだ」と語り、地域振興も念頭に経営に取り組んでいく、壮大な計画を語っていました。