「石見和牛」ブランドが消滅? 広がる困惑と模索

島根県西部を代表する特産品といえば、口の中でとろける上質な肉質が魅力の「石見和牛」。
昨年度の売り上げは、トータルで1億1000万円を超え、県西部で盛んな畜産業を支える重要なブランドですが、今、岐路に立たされています。
地元のJAが打ち出した“ある決定”を受け、ブランド自体が消滅する可能性が浮上しているんです。
困惑する現場を取材しました。

記者がまず訪れたのは、県西部・邑南町にあるイタリアンレストラン。
看板メニューの1つが「石見和牛」のステーキです。
県内外にファンも多く、多いときにはひと月で100件以上の予約が入ります。
里山イタリアンAJIKURAの田村弘志料理長は、「香り、脂の甘み、うまみなどすべてがすばらしいお肉。楽しみにしている客もたくさんいて、“なくてはならない存在”だ」とその重要性を語ってくれました。
ではなぜ、この“なくてはならない存在”がブランド消滅の危機に陥っているのでしょうか。
きっかけは、ことし7月、JAしまねによる突然の発表でした。
今後、「和牛肥育事業」から撤退することを決めたというものです。
「和牛肥育事業」とは、JAが運営する肥育センターが、農家の子牛を安定した価格で買い取る島根特有の取り組みです。
買い取られた牛の一部は、「石見和牛」として売り出され、40年以上、県内の畜産業を支えてきました。
しかし、長年の赤字経営に加えて、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や急速な円安による飼料価格の高騰などが重なり、JAは事業からの撤退を決定しました。
それはつまり、農家にとって今までの安定した販路がなくなるとともに、「石見和牛」というブランド自体も、消滅するおそれが浮上したのです。
この決定に、石見和牛の生産が盛んな県西部には衝撃が走りました。
邑南町・美郷町・川本町の3町は猛反発し、JAしまねに対し、肥育事業からの撤退を考え直すよう求める要望書を提出しました。
これに対し、JA側は、「代わりの事業者を探す」としていますが、地元の畜産農家からは不安の声が出ています。
「ある日突然、報道されて知った。うそだろうという思いだ」。
そう困惑するのは、美郷町でひいおじいさんの代から70年以上、畜産農家を続ける山田昇さん(76)です。
ただでさえ、町内の畜産農家は、後継者不足や高齢化の影響で激減しています。
新型コロナや飼料価格の高騰で厳しい状況が続く中、今回の決定で、さらに先行きが不透明になったといいます。
山田さんは、「肥育センターあっての石見和牛だ。できることなら、決定を撤回して、元の状態に戻して欲しい」と語っていました。
地元に根づく畜産業の衰退は地域経済の衰退にもつながりかねません。
状況を打開しようと、自治体は、独自の模索を始めています。
美郷町では、町の担当者が町内の畜産農家を定期的に訪問し、細かい要望を直接、聞き取っています。
取材したこの日は、朝から1時間以上かけ、3軒の農家を訪問しました。
町では、とりまとめた要望をJAに伝える一方で、今後は、JAだけに頼らない販路がないか調査することも含め、具体的な対応策を検討することにしています。
畜産業を担当する美郷町役場産業振興課の佐竹志保さんは、「畜産農家の声を実際に聞き、経営を維持・継続できるような支援策を講じていくとともに、石見和牛というブランドを守るために頑張りたい」と話していました。
時代が変わる中で翻弄される島根県の畜産業界。
長年続いてきた地域の産業をどう守っていくのか、重く、答えの見えない課題が突きつけられています。