農家の数2万戸減少 企業の農業への参入相次ぎ 県が支援強化

農業の担い手不足が課題となる中、県内の農家の数は20年間で2万戸ほど減少しています。
一方、県内での企業による農業への参入は10年あまりで8倍ほどに増えていて、県は来週、初のセミナーを開くなどして、こうした動きを後押ししていく方針です。

農林水産省のまとめによりますと県内の農家は、2000年度には6万5000戸を超えていましたが、20年後の2020年度には2万戸ほど減っておよそ4万5000戸となり、農業県の1つである県内でも担い手不足が深刻な状況が続いています。
一方、県のまとめによりますと、県内での企業による農業への参入は、2010年度の10件から2022年度には84件と8倍ほどに増えています。
要因について県は規制の緩和に加えて、景気の不透明さやコロナ禍を背景に、企業が事業の多角化を図る動きの1つとみています。
このため県は、こうした動きを後押しして担い手不足の解消につなげようと来週の22日に前橋市内で、参入を検討する企業を対象とした初のセミナーを開催します。
この中では、すでに参入した企業による取り組みの紹介や、農業用機械の購入に対する補助制度など、行政や金融機関の支援の仕組みの説明などを行うということです。
県農業構造政策課の桑原克也係長は「担い手不足の解決に向けて『個』の力だけに頼るのは難しい状況になっている。資本や労働力を持つ企業の参入を強く促していきたい」と話しています。

農業に新たに参入する企業の狙いは何なのか。
前橋市に本社を置き冠婚葬祭や飲食店などの事業を進める企業は、食材価格の高騰に伴うコストの上昇を抑えようと、去年4月、野菜の生産に乗り出しました。
結婚式場やレストランなどで使う野菜の価格高騰に悩まされていたということで、畑では、なすやサツマイモを、農業用ハウスでは、いちごの栽培を始めました。
去年8月に降ったひょうで畑の作物は大きな被害を受けたということですが、ハウスのいちごは順調に育ち、グループ企業のレストランなどに出荷されていて、今後は栽培する野菜や果物の数を増やすことを検討しています。
この会社で農業を行う関連会社の小山京子社長は、「初めてで手探りだったが、いちごは思った以上によく育った。自分たちで育てた、新鮮で安く、安心な野菜をお客様に提供できるよう今後も頑張りたい」と話していました。

伊勢崎市に本社がある自動車部品メーカーは、去年9月から農業用ハウスでトマトの栽培を行っています。
ふだんは、自動車のエンジンなどの部品を製造していますが、今後、EV=電気自動車の普及によって部品の受注の減少が予想されるとして、異業種への参入を検討してきたといいます。
そして、自社で生産や出荷ができる農産物に絞ったうえでトマトの栽培に至ったのは農業用ハウスでの栽培で長ければ年に8か月間、安定的に収穫できる可能性があり、糖度が高いものであれば利益を得やすいためだったということです。
農業用ハウスで一定の温度や湿度を保つためのシステムは独自に開発したもので、一定の大きさや品質の部品を製造するために欠かせない、コンピューターによる制御技術が応用されているといいます。
このシステムでは気温が上がれば、差し込む日光を遮るために天井が自動的にカーテンで覆われ、湿度を保つために配水管から霧が定期的に噴射される仕組みになっています。
その結果、今では1日に500キロから600キロを農協などに出荷しているほか、農業用ハウスの独自のシステムの販売も始めたということで、部品製造以外での新たな収益源になることを期待しています。
トマト栽培を行うために立ち上げた会社の武将輝社長は「トマトの栽培面積をさらに広げていくだけではなく開発したシステムも積極的に販売していきたい」と話していました。