森林整備計画 10市町村で県の指針などとほぼ同じ文章

防災や温暖化対策などのために市町村が策定する「森林整備計画」について、群馬県の10の市町村で主要な項目の多くが県が作っている指針などとほぼ同じ文章になっていることがNHKの取材でわかりました。
専門家は「県などの文章をそのまま使うケースは全国的にも多く、計画を立てて実行するという本来の役割が果たせていない」と計画作りの形骸化を指摘しています。

森林が持つ防災や温暖化防止などの機能を維持するため、民有林がある市町村は、今後10年間に行う伐採や保全の方針などを示す「森林整備計画」を策定することが法律で義務づけられていて、群馬県では35の市町村のすべてが対象となっています。
NHKが、各市町村の計画を調べたところ、10の市町村で、整備の基本方針など主要な項目の多くが県が作っている指針やほかの自治体の計画書とほぼ同じ文章になっていました。
中には、県の20年前の指針にある敬語を使っていない文章に15年前の指針に書かれた敬語の記述を挿入したような不自然な表現や、周辺の自治体と同じ文章を使い、文中に書かれている「市」や「町」の文字を自分たちの市町村の表記に変えただけのケースもありました。
森林整備計画に詳しい東京大学の當山啓介助教は「必要な項目を記載するために県などの文章をそのまま使うケースは全国的にも多く、計画を立てて実行するという本来の役割を果たせていない」と話しています。

森林は、土砂災害や地球温暖化の防止などさまざまな機能を持ち、日本では、国土の70%近くを森林が占めていることから、計画的に整備を進める必要があります。
日本の森林整備は、はじめに政府がおおむね5年ごとに基本方針となる「森林・林業基本計画」を定め、それに即して国が今後15年間の「全国森林計画」を策定します。
これを受けて、都道府県が「地域森林計画」と呼ばれる指針を作り、市町村が今後10年間に行う具体的な伐採や保全の方針などの「森林整備計画」を策定することになっています。
この森林整備計画は、民有林があるすべての市町村に法律で策定が義務づけられています。
各自治体は樹木の種類や分布状況など地域の実情を踏まえて5年ごとに計画を更新しながら、林業関係者などと連携して森林の整備を進めることになっています。

群馬県内では35の市町村すべてが「森林整備計画」を作成していますが、主要な項目の多くで県の文書やほかの自治体とほぼ同じ記述になっているケースが相次いでいます。
このうち、森林整備の基本方針では、3つの市町村が同じ文章を使い、文中に書かれている「市」や「町」の文字を自分たちの市町村の表記に変えただけのケースもありました。
また、基本方針のほぼすべてが県の指針と同じ自治体もあり、20年前の指針にある敬語を使っていない文章に15年前の敬語の文章を挿入したような不自然な表現となっていました。
このほか、6つの町と村でも基本方針の多くが県の指針や周辺の自治体の計画書の文章と同じでした。
これらの市町村では、合理化の基本方針や森林整備への住民参加などの項目でも、ほかの自治体とほぼ同じ文章となっています。

「森林整備計画」に力を入れている自治体の1つが、県内で森林の面積が最も広いみなかみ町です。
町の計画書では、地元の森林の特性や課題を細かく分析した上で、人材の育成や地元の木材の活用方法など基本方針を具体的に定めています。
また、森林整備を通じた地域振興や住民参加のモデルを町独自に定めるなどして、実際の整備につなげています。
その計画で町が中核に位置づけるのが、「自伐型」という形態の林業の活用です。
日本の森林整備は、所有者が地元の森林組合などに管理を委託する形が主流で、林業が衰退する中、少ない人数で広大な土地を受け持つことになり、維持管理が行き届きにくくなっています。
一方、自伐型林業は、森林を一定の区画ごとに分け、少人数のグループや個人がそれぞれのエリアを管理する“小さな林業”の形態で、みなかみ町では11のグループのおよそ100人が参加しています。
自然豊かなみなかみ町では、地方の生活を望んで移住する若者や定年退職者などが多く、そうした人たちが、アウトドアのインストラクターや農業などを行いながら、自伐型林業に携わっています。
町内では、生活の足しとなる収入を得られ、環境保護にも貢献できるとして、自伐型林業への参加を希望する人が増えているということです。
みなかみ町農林課の原澤真治郎課長は「利根川の源流にある町なので森林が整備されて初めてきれいな水が届き、災害などを防ぐこともできる。移住者の受け入れに積極的な町に適合した形で持続可能な森林整備を進めていきたい」と話しています。