国の登録有形文化財「有栖川宮旧邸」 京都の学校法人が売却

京都の学校法人「平安女学院」は、所有する皇族ゆかりの旧邸宅で、京都市上京区にある「有栖川宮旧邸 有栖館(ありすがわのみやきゅうてい ありすかん)」について、東京の大手不動産会社に建物や土地を売却したと明らかにしました。

京都市上京区にある「有栖川宮旧邸」は、明治時代に京都御所の建礼門(けんれいもん)前に建てられ、旧皇族 有栖川宮の邸宅となりました。
1891年に現在の場所に移転し、2007年まで京都地方裁判所の所長官舎として使われたあと、2008年に平安女学院が購入し「有栖川宮旧邸 有栖館」として、華道などの伝統文化を学ぶ授業やクラブ活動などで活用されてきました。
およそ2100平方メートルの敷地には木造平屋の母屋のほか2つの門があり、いずれも国の登録有形文化財になっています。
平安女学院によりますと▼財政基盤の安定化や▼来年(令和7年)迎える創立150周年にあわせて行う設備投資の資金の確保のため、先月(5月)末に土地や建物を、東京の不動産会社大手「森トラスト」に売却したということです。
売却額は数十億円規模としています。
平安女学院は「少子化が進む中で、維持管理を続けることが難しく、苦渋の決断だったが売却を決めた。伝統的な建物として活用してもらいたい」としています。
一方、森トラストは「活用の方向性は検討中だが、歴史的価値や景観を保全するかたちで活用していきたい」としています。

【国の登録有形文化財制度 その課題】
今回、学校法人が売却を決断した要因の一つに、文化財を維持することの財政的な難しさがありました。
今回売却された「有栖川宮旧邸 有栖館」は、国の登録有形文化財になっていましたが、平安女学院によりますと、庭や建物の維持・管理に、毎年およそ300万円がかかるのに対して、国からの補助などはないということです。
文化庁によりますと、今月(6月)1日時点で、全国に国の登録有形文化財の建造物は1万4035件あり、このうち京都府は630件で、全国で3番目に多いということです。
登録有形文化財は、国や都道府県それに市町村が「指定」している文化財とは異なり、国からの補助などがほとんどなく、維持・管理には、所有者の負担が大きいことが全国的に課題になっています。
このため、京都府や京都市では、こうした文化財についても幅広く支援しようと、独自の補助制度などを設けてきましたが、建物を売却したり、解体せざるをえなくなったりするケースはあとを絶たないということです。

【登録有形文化財「旧邸御室」では】
京都市右京区にある「旧邸御室(きゅうてい おむろ)」は、8年前に国の登録有形文化財に登録されました。
昭和12年に建てられた近代和風住宅で、「庭鏡(にわかがみ)」と呼ばれる庭の樹木が居間の大きなテーブルに鮮やかに映り込むことで知られています。
土地と建物は京都市中京区内の不動産賃貸会社が管理していて、会社によりますと、庭のせんていなど維持・管理に年間およそ1200万円かかるということです。
国からの補助などはないため、有料で一般に公開しているほか、撮影やイベントに活用してもらおうと貸し出すなどしていますが、その収入だけではまかないきれず、会社が補てんしているということです。
また、こうした事業を行うにあたり、建物の耐震性を高める必要があり、瓦を一部軽いものに替えたり、新たに柱や壁を設けましたが、かかった費用はすべて会社で負担したということです。
旧邸御室の山本晴巳 館長は「歴史ある建物は毎年修繕が必要なか所が出てくるなど、維持・管理において金銭的な負担が大変です。登録有形文化財という称号はありますが、金銭的に維持できなければ、手放さざるを得ない状況がいつか訪れるのではないかという危機感を持っています。今は訪れた人に喜んでもらおうと頑張っていくしかないと思っています」と話しています。

【専門家 “上手な活用例 増やすこと必要”】
近代建築史が専門で、歴史的建造物の保存や活用などに取り組む京都工芸繊維大学の笠原一人 准教授は「国の登録有形文化財の制度は▼改修や修復にかかわる費用が国から出ない▼国の文化財と名乗りながら、届け出があれば解体できるなど、保存するには使いにくく、文化財が残りにくい制度になってしまっている」と指摘しました。
そのうえで「京都市などは、独自に補助を行うなど頑張っているが、所有者には、それでも厳しいのが現実で、国の制度面も改善の余地がある。こうした文化財をどうしたら後世につないでいけるか、所有者や地域の人、専門家などの関係者で知恵を出し合い、上手な活用の事例をひとつでも多くつくっていくことが必要だ」と話していました。