京都の「保津川下り」 転覆事故から4か月ぶりに運航再開

ことし3月の転覆事故を受けて、運休が続いていた京都の「保津川下り」が17日、およそ4か月ぶりに運航を再開しました。

ことし3月、亀岡市の通称、保津川で、観光客と船頭合わせて29人が乗った川下りの舟が岩にぶつかって転覆し、船頭の男性2人が死亡しました。
川下りの運航を休止していた運航会社は、舟の改良や安全性の高い救命胴衣の導入など、対策の見直しを進め、17日、およそ4か月ぶりに運航を再開しました。
亀岡市にある舟の乗り場では、朝、およそ80人の船頭が集まり、舟の整備や無線機の通信状態を入念に確認していました。
そして、午前9時すぎ、およそ20人の乗客が最初の舟に乗り込み、船頭から救命胴衣の使い方や川に投げ出された時の行動について説明を受けたあと、京都市の嵐山に向けて出航しました。
家族と一緒に来た東京の40代の女性は「舟に乗るのは心配なところもありましたが、実際に乗ってみるととても楽しく、安心して乗ることができました」と話していました。
「保津川遊船企業組合」の豊田知八代表理事は「お客様を安全に嵐山まで送り届けることが私たちの責務だと再認識して、毎日、運航していきたい」と話していました。

【転覆事故に巻き込まれた乗客は】
運航の再開にあたって、事故に巻き込まれた女性がNHKの取材に応じ、安全対策の徹底を求めました。
女性は、救命胴衣が膨らまないまま、乗客の中でもっとも遠い下流400メートルまで流されました。
なんとか救助され、一命を取り留めましたが、「川に落ちて苦しかったという記憶や恐怖心が残っていて、今も事故があった時間帯には、心臓がドキドキしてつらくなることがあります」と話しています。
運航の再開については、船頭の生活や伝統の継承などの観点から理解できるとした上で、「安全対策を講じて自信を持って再開されると思いますが、完璧な対策ということはあり得ない」と言います。
女性は「今回の事故と同じく、想定を超えた考えられないことが起こる可能性がある。そのことを常に頭に置きながら、新たに検証が必要なことや少しでも引っかかることがあれば、対策を考えてほしい」と話しました。
その上で、「休止していた運航を再開したという感覚ではなく、新しい会社になったくらいに気持ちを新たに切り替え、運航を始めてほしい」と求めていました。

【運航会社が公表した安全対策】
運航会社は今月13日、安全対策の具体的な内容を決め、公表しました。
会社では、3月の事故は、かじを操作する船頭とともにかじのグリップも水中に落ち、他の船頭が代わりにかじをとれなくなって、舟を制御できず、岩にぶつかったことが原因だったとしています。
安全対策では、これを踏まえて、船頭の転落を防ぐために、舟の足場に船頭の足を引っかける器具を取り付けるとともにかじをベルトで固定する舟の改良を行いました。
また、出航できる川の水位の基準は、これまで85センチとなっていましたが、事故が起きた日の水位が69センチだったことを踏まえ、より厳しく65センチに変更します。
一方、緊急時の備えのうち、救命胴衣については、従来、緊急時に膨らんで水に浮くようになるタイプを使っていましたが、事故では、一部が機能しなかったことから、着用するだけで浮くベスト型などに切り替えます。
また、救命胴衣を着用しても、幼い子どもなどは脱げてしまうおそれがあるとして、新たに乗客の身長に制限を設け、身長80センチ以下の子どもの乗船は断ります。
さらに、今回の事故では、電波状況が悪いために事故をすぐに把握できず、消防への通報が遅れたことから、すべての舟に位置情報がわかるGPS機能付きの新型の無線機を備えるほか、トランシーバーも合わせて備えることで、いつでも連絡を取れるようにします。
このほか、緊急時の対応をマニュアルにまとめて定期的に訓練するほか、乗客には、万が一川に落ちた際の対処法などを、乗船時に丁寧に説明するとしています。